「な、いつまで、それっ……汚れるだろ……」
互いに下着だけの姿になり、信宏は彼の中心を布越しに弄り続けていた。
「うん、なんとなく……」
下着越しに彼のものの形がくっきり見えている様だけで、信宏には刺激が強すぎる。
「見たら、萎えるから……っ?」
不安な顔をする智己に向かって、小さく首を振った。
「見たら、止まんなくなりそうだから」
「止まんなくていいから」
許しを得て、ゆっくりと彼の下着を引き摺り下ろした。想像するだけだったそこが、ついに現実で目の前に存在する。直接ぴたりと手で触れると、智己は一瞬びくんと震えた。
「智己……」
無意識に彼の名を呟いて、そこをごしごしと扱いてやる。想像の中では彼の外見と声しかなかったが、今は視覚や聴覚だけでなく、触覚も嗅覚も全てが活動している。現実の彼のそこはとても熱くて、そしていやらしい匂いがした。
「ふ、ん、んぅ……っ」
智己は声を漏らすまいと口を噤んでいるようだが、鼻からは甘い喘ぎが漏れている。
「智己がイクとこ、見たい」
手の動きを早めると、智己はいやいやをするように首を振った。
「や、だ、待っ……」
彼の制止を受けて、本当にその手を止めると、智己はびっくりしたように目を見開いた。
「なん、で」
「だって、やだって言うから」
許しが出たことはやらせてもらうが、駄目だと言われれば我慢する。彼の過去を考えれば至って当たり前のことだと思ったが、智己は悔しそうに涙の滲む目をきつく閉じた。
「イキ、たい……っ」
少し躊躇ってから、彼のものに添えた手を再び動かす。先端を揉み込むように絞った時、そこからぼたぼたと快楽の証が飛び散った。
真っ赤になった智己の顔を見ようとするが、彼は両手で顔を覆ってしまう。
「お前、ほんと、無自覚に意地悪いことすんな……っ」
「してないけど」
「これから俺が、やだとか、何かそういうこと言っても、やめないでいいから」
「どうして?」
そっと彼の手を顔から剥がすと、その瞳は羞恥か何かでぶるぶると震えていた。
「……っ、そういうのは無意識に言ってるだけってこと! そんなの、本音じゃない……」
「本当に?」
「しつこいって! 俺は……俺は、お前になら何されても、多分嫌じゃない。お前がいつも妄想で俺にしてたこと、全部見たい」
智己は唇を噛みながらすっと視線を外す。彼に言われたことを、信宏はゆっくりと噛み締めた。絶対に現実に実行することはないと思っていたのに、一線を越えてしまえば、そこには途方に暮れるほどの自由があった。
彼の太ももに手をかけて軽く足を開かせると、その身体は面白いように跳ねる。
「……ひゃっ」
智己が変な声を上げたのは、信宏が奥の窄まりに指を滑り込ませたからだ。
「お、俺、やっぱ入れられる方、なんだ?」
「だって、頭の中でいつもそうしてきたから」
買ってきたローションをたっぷりと手に付けてから、人差し指だけをゆっくりと入り口付近にあてがった。進んでいるかどうかも分からないほど、ゆっくりゆっくりと押し広げるように中を分け入っていく。人差し指をやっと一本入れたところで、ふうと息をついた。
「な、なんか、時間かかってごめん。でも、何されてもいいって言われても、俺はやっぱり智己に痛くするのはやだよ」
不器用さをカバーするために我ながら言い訳がましいことを言ってしまったかなと思っていたら、彼の中に入れていた人差し指がきゅっと締め付けられた。
「ずるい……そういうとこが好きって、俺、言った、じゃん……っ」
「ごめん、ずるいって何……?」
指を止めておずおずと智己の顔を覗き込むと、彼はすぐ傍にあった枕を片手で勢いよく掴み、信宏の顔に投げ付けた。
「だって、そんなこと言われたらもっと好きになる。俺ばっかり信宏のこと好きになってずるい、ムカつく」
視界を塞ぐ枕を退けると、少し不貞腐れた智己が見えた。
「俺だって、智己のこと好きだよ」
「どこが好きなのか言って」
枕を投げたり我儘を言ったりできる程度には、身体の中の異物に慣れてきているのだろう。信宏はさり気なく指を増やしていってみることにした。
「智己の好きなとこ? えと、俺たちのどーでもいいような話、にこにこしながら聞いててくれるところとか?」
「なんでそんなとこ——」
「自分の話に自信のない内気な理系男子にすれば、楽しそうに自分の話聞いてくれるだけで嬉しいもんなの」
そうやって落ち着いて一つ一つ考えていけば、彼のどこが好きなのか次から次へと思い付いた。
「あとEDになるくらいのトラウマ話なのに、案外あっさり明るく話せる強いところとか」
「俺、強くなんか……っ」
彼の中心をまたやわやわと扱きながら、二本の指を揃えて中で曲げると、智己が息を呑んだ。
「なんで? 今まさにこうやって一生懸命慣れようと頑張ってるとことか、強いと思うし、健気で好きだなって思うけど」
言葉で一つ一つ彼を誉めるたびに、彼のモノは固く芯を持ち始め、逆に内部はとろとろに蕩けて柔らかくなっていくようだった。
「それ……強いんじゃなくて強がりなだけ」
「じゃ、強がりなとこが好きってことにする」
「なにそれテキトー」
「うん、俺そういう緩い性格だから、逆に智己のしっかりしたとこが好き。ボケとツッコミ、みたいな……?」
さすがに指を4本入れた状態では、智己はもうあまり話を聞いている余裕もなさそうだった。
「何か俺、全然かっこいいこと言えないし、とりとめもないし……」
どうせ何も返事はないと思って呟いたのに、智己の手がそっと伸びてきて、信宏の腕を掴んだ。
「いいよ。信宏のそういうとこも、きっと全部……好きだから」
そんなことを言いながら智己がいつものように優しく微笑んだせいで、信宏の中心に自然と熱が集中する。
「と、智己……そういうのは、ヤバい。い、入れたくなる」
「どーぞ」
ごくりと喉を鳴らすと、智己に苦笑されてしまった。彼の中からゆっくりと指を全部引き抜くと、彼の入り口は物足りなさそうにひくつく。その光景に益々煽られながら下着を脱ぐと、ほとんど触っていなかったはずなのに、そこはもう完全に準備ができていた。
これはちょっとサカり過ぎじゃないか——何となく恥ずかしくなって智己の様子を窺うと、あろうことか彼は僅かに上半身だけ起こしてじっとこっちを見ていた。
「やっぱ身長に比例するのかな、アレの大きさって」
小さいと言われなかっただけマシだが、彼のその言葉の意味を悶々と考えてしまう。ただでさえ入りにくい男同士で、大きいというのは単なる褒め言葉ではない。
「……怖くなった? やめとく?」
恐る恐る尋ねたが、智己はちょっとムッとして首を振った。
それならば——と意を決したところで、わざわざ買ってきたゴムの存在を思い出した。ローションの方は彼の中をほぐすのに随分役に立ったから、きっとこっちのアドバイスも重要なのだろう。
ぎこちない手つきで包装ビニールを破り、箱を開ける。ドキドキしながらさらに正方形の個包装を破り、それを装着しようとするのだが、思っていたようにうまく巻き下ろせない。
「ね、何してんの? まさか付け方も知らないんじゃ——」
「ち、違う、何か、痛くて……」
情けなさで泣きそうな声を出してしまう。智己は身を起こしてコンドームのパッケージをじっと見つめた。
「これ、標準サイズ。お前のそれ、標準サイズじゃない。以上」
実に初歩的なミスだ。無理矢理付けようと思えば付けられるかもしれないが、その場合行為に集中できそうにない。
「ご、ごめん……」
肩を落として項垂れるが、その腕を智己が引っ張った。
「いいよもう、ナマでシよ?」
智己の煽りに乗せられ、気が付いたら彼をベッドに押し倒していた。深いキスをしながら、彼の双丘の割れ目に自分の猛りを擦り付ける。しかし当然そんな状態でうまく入れられる技術もなく、唇を離して彼の入り口をしっかりと見た。コンドームを付けられない代わりに、ローションを自分のそこにも塗りたくり、先程広げた場所にゆっくりと侵入を試みる。
「っふ、う、ぅ……」
先端がじりじりと入った辺りで、智己から吐息が漏れる。信宏の方も彼の狭い内部の快感に耐えるのに必死で、彼の呻きが快楽からくるものなのか、苦悶からくるものなのかすぐには分からなかった。彼の表情で判断したいのだが、最近切っていなかった前髪が酷く邪魔だ。
額の汗を拭い、そういえばシャワーを浴びなかったことを思い出して、自分は臭くないだろうかと余計な心配をする。雑念を振り払うように前髪をかき上げて智己の様子を見ようとしたら、急に彼の中が信宏のものを締め上げた。
「え、ちょ、そんなされたら……っ」
「だ、だって……っ、嘘」
彼が驚きの声を上げる中、信宏のそこはびくびくと白濁を零してしまっていた。はあはあと荒い息をつきながら、一旦彼の中から退却する。ぐったりと彼の横に転がると、ばしんと肩を叩かれた。
「キリンのこと早漏とかって馬鹿にできないよ、それ!」
「ご、ごめん……あ、キリンってオス同士でよく交尾するらしい」
「賢者タイム!? そんなどうでもいい薀蓄いらないんだけど」
「あと早漏じゃなくてあれが普通らしい。確かに外敵の多い草食動物なら、交尾は手短な方がいいもんな。つまり、人間の草食系男子も何か合理的な理由があって手短に射精してしまう可能性があったりなかったり」
「ないよ」
醜態を晒して混乱した頭が、彼の鋭い一言でやっと落ち着き始める。
「ご、ごめん、もっかいトライしていい?」
もう一度彼に覆い被さり、彼の顔を見下ろした。
「当たり前だろ。このまま放置する方がどうかしてる」
確かに、智己のそこはまだ期待に打ち震えていた。足を開かせて隠された部分を顕にすると、今自分が出したものが一筋零れてくる。そんな光景を見ながら軽く扱くだけで、信宏のものはすぐに硬度を取り戻した。
「今度はちゃんと、智己も気持ちよくできると、いいな……。そういえばさっき、ここぎゅってなったの、気持ちよかったから?」
智己は答えるのを拒否してぷいと横を向いてしまった。しかしそんなことを追及する余裕は信宏にもなく、狙いを定めてつぷりと彼の中に自身を埋め込んだ。
今度はもう失敗しないように。今まで培ってきた我慢の特技を今こそ発揮する時だ。ぴったり吸い付くような彼の内部の感触に耐えながら、ゆっくりと奥に進んでいく。
「今半分くらい……」
はあはあと呼吸を整えていると、額から汗が伝って来る。また汗と前髪をまとめて拭うと、智己の中がびくりと震えた。
「〜〜〜っ」
彼は声に出さずに悶えていたかと思うと、放置されていた枕を掴み、信宏の顔にぎゅうぎゅうと押し付けた。
「な、なになになに!? ちょっと、また出るから、やめ……」
枕を退けさせると、智己は自身の腕で目元を覆ってしまった。何かあったのかと聞くべきなのかもしれないが、それをできるほどの余裕はない。
少しすると彼の内部も落ち着き、とりあえず危機を回避したため、さらに奥へと押し進む。先程出してしまった白濁のおかげで、幾分滑りもよくなっていた。
「っ……ふ、ぅ、う……」
「……入った」
根元まで全部入ったところで、智己の身体をぎゅっと抱き締める。気を抜くと意識を全て持って行かれそうになるほどの快感。だが、智己はいっぱいいっぱいといった風に浅い息を吐いており、強引に動くようなことはしづらい。それに信宏もこの悦びがすぐに終わってしまうのも嫌で、呼吸を整えながら、彼に包まれる感触に浸った。
しばらくそのままでいると、智己の呼吸も随分穏やかになり、優しく信宏の髪を撫でてくれた。
「ね、俺が何も言わなければずっとこのままでいるつもり? ……いいよ、好きにして」
柔らかい彼の許しの言葉を聞いてしまったら、堰き止めていた願望が全部溢れ出す。最初は控え目に少し抜いては押し戻す小さな抽挿だったが、すぐにそれでは足りなくなり、抜けるギリギリまで引いて一気に奥まで突き上げる深い抽挿へと変わっていった。
「は……っ、とも、き、ともきっ」
「んぅ、ん、んっ……」
しっかり唇を噛んでいるせいで、智己からはくぐもった呻き声しか聞こえない。キスで彼の口を塞ぎ、不器用ながらも彼の唇を割って舌を入れる。上の口で彼の口腔を味わいながら、下の口でいきり立ったモノを絞られて、妄想だけでは味わえなかった快感に頭がどうにかなりそうだ。ゆっくりと唇を離すと、二人の間には銀の糸が引き、それがまたやたらと卑猥に見えた。
羞恥を誤魔化すように、何となく二人の身体に挟まれていた智己の中心に手を添える。後ろの苦痛を和らげるように優しくそこを擦り上げると、キスによって半開きになった智己の口からは甘い声が漏れ始めた。
「はっ、ぁ、あ、んぁ、やっ……」
乱れる智己の姿は、想像なんかよりもずっと綺麗だった。
「ごめ……、俺、もう」
我慢できない、と言葉を続ける余裕もなく、信宏は抽挿の速度を上げた。奥まで突くたびに二人の汗で湿った肌がぱちんぱちんとぶつかり、その接合部からは先程信宏が出してしまったものやローションの混ざる水音まで聞こえてくる。煽られすぎて脳が麻痺し始め、知らず知らずの内に智己のそこを握る手にもぐりぐりと力が入った。
「そこ……や、だ、ぁ、あ——」
手の中で彼のモノがびくびくと脈打ちながら快感の証を吐き出した。今までにないほどの強い締め付けに身を震わせながら、信宏もラストスパートをかける。
「あと、少し……」
「っは……ぁ、のぶひろ……」
ぎゅっと瞑っていた目を開けると、イッたばかりの蕩けた瞳で、智己がじっとこちらを見ていた。
「——っ!」
見られていると意識した瞬間、頭の中が飛んで、気が付いたら彼の中に大量の白濁を注ぎ込んでいた。
脱力しきって智己の上にぐったりと覆い被さり、二人で呼吸を整える。いつも自慰行為の後に感じていた虚しさとは違う、満たされたような感覚がどくどくと脈打つ鼓動と一緒にゆっくりと身体の中を巡っていた。
しばらくしてから、ふふっという小さな笑い声が耳をくすぐる。
「気持ちよかった?」
「聞かなくても分かるだろ……」
我を忘れてがむしゃらに腰を振ってしまったことがとにかく恥ずかしくて、穴があったら入りたいくらいだった。
ずるり、と智己の中から抜け出すと、彼から「んっ」という小さな喘ぎ声が漏れる。また変な気持ちになってしまいそうだったので、互いの熱を冷ますように、彼の隣に仰向けで転がった。
「じゃあさ、妄想と比べて、どうだった……?」
「全然、駄目だった」
「……やっぱ男の身体には幻滅した?」
慌てて智己の顔を見ると、彼は身体をこちらに向けてシュンとしていた。
「そうじゃなくて、その、俺が、全然想像してたようにかっこよくできなくて、駄目だったなって」
智己を存分に甘やかし、余裕綽々で彼を弄ぶ理想像は脆くも崩れ去った。
「妄想の中の信宏ってどんなキャラなの」
「ネタバレになるから言えない」
「何それ」
「その内、現実でも妄想と同じことできるようになる予定だから、それまでのお楽しみってこと」
「待ってるよ……多分無理だと思うけどな」
智己がぼそっと呟いた最後の部分は、信宏の耳には届かなかった。
「そういえば俺、智己のイイところ見つけられてなかった、よな……」
はあ、と溜め息をつくと、智己の指がこつんと額を突いた。
「それもその内ってことで」
こんな自分も彼は受け入れて待ってくれる——また一つ彼の好きなところが増えていく。ごろりと寝返りをうって、智己の身体をやんわりと抱き締めた。
「でも、たまに入る途中でぎゅーってなってたのは? あれは前立腺ってやつとは違う?」
「そ、れは……」
智己は言葉に詰まったかと思えば、信宏の前髪を一房摘み上げた。
「あ、前髪はすごく邪魔だってことに気付いたから切ろうと思う」
「! 切らなくていい」
髪からパッと手を離した智己は、変に早口だった。
「じゃあ、オールバックに固めるとか?」
「しなくていい!」
信宏に前髪をなくされると、どうやら彼は非常に困るらしい。その理由を考えようとしたその時、二人の間からぐうと腹の鳴る音が聞こえた。
「そういえば、夕飯まだだった」
音の主である信宏がぽつりと呟き、智己がくすりと笑った。
「じゃ、その前にシャワー浴びよ」
「ん〜」
智己を腕の中に閉じ込めたまま、その温もりを確かめる。
「何?」
「シャワー浴びて飯食ったら……もっかいしていい?」
許可を求めると、智己は真っ赤になって頷いてくれた。
声に出して求めてみれば、意外と簡単にその願いは叶うものだ。今までの人生ずっと、全てを妄想のままにして封じ込める必要はなかったのかもしれない。
あるいは、自分は特別我慢強い性格だったわけではなく、我慢できなくなるほどの欲望を智己に出会うまでは知らなかっただけなのかもしれない。
「俺って、本当にEDだったのかな?」
智己がふと漏らした呟きに、「え?」と返す。
「いや、病院で診断してもらったわけじゃないし、単に俺がゲイで女の子相手が駄目だっただけなのかもしれないな〜と」
「え? あ、智己、女の子ともしたことなかったのか」
「俺が酷い目にあったの高1。中学まででそんなことするほど俺マセガキじゃなかったし」
「俺のこと童貞とか言っといて、むしろ智己の方がまだ童貞じゃん……」
ふっと笑うと、智己からすかさずデコピンが飛んでくる。だがその痛みさえも今は幸せにしかならない。いたずらな彼の手を捕まえると、信宏はそれを逃がさないようにぎゅっと包み込んだ。