ディストピア、あるいは未来についての話 3 | fDtD    
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3

 服を着た後、仕上げにタオルでわしわしと髪を乾かしながら、旭は洗面所のドアをちらりと見た。アラタは一度入って出た後、外から律儀にもう一度鍵をかけたらしい。これまで使ったこともない鍵なので、外からコイン一捻りで開くことももちろん知らなかった。
 何とはなしにドアを開けた瞬間、旭は思わず「ぎゃっ」と叫んでしまいそうになった。なぜならドアを開けてすぐの廊下に、 アラタがじっと立っていたからだ。
「何でそんなとこにいるんだよ」
「待ってた」
「廊下で? ずっと?」
「リビングと寝室どちらか迷って、一番確実なのがここだと思った」
 彼は自信ありげに自分の行動原理を説明した。
「もう、ホント、お前ってマジでαなのか……? 頭弱いだろ」
 そんなことをぼやきながら、旭は水分補給のためリビングへ通じるドアへと向かう。
「俺も、ずっと自分はβだと思っていた」
「検査ミス? たまに聞くけどそんなことホントにあり得るのか?」
 旭はキッチンへ向かい、そこで一度冷蔵庫から水のペットボトルを取り出した。
 中学に上がる頃、子供たちは皆型検査によってα、β、Ωが診断される。それまで何の区別もなく一緒に遊んできた子供たちが、その日から三種類に分けられて新たな社会が形成されるのだ。
「だってαなら、発情中のΩと出くわせば一発だろ。検査にミスしても第二次性徴が終わる頃にはすぐ分かる。それとも何だ、まさかこれまで発情したΩに会ったことないとか言わないよな?」
 ゴクゴクと水を喉に流し込んでいく旭をじっと見つめながら、アラタはおもむろに口を開いた。
「俺はΩのヒートを見てもラットに入らない」
 Ωの発情をヒートと呼ぶのに対し、それに当てられた際のαの発情状態をラットと言う。旭は彼の言葉が信じられず、もう一度頭の中で言われた意味を考えた。
「えーっと、インポってこと?」
「いや、生殖機能的には問題ない。ただ、α特有の我を失うような発情状態というのを経験したことがないだけだ」
 旭はまだ半信半疑のまま冷蔵庫をパタンと閉じた。
「それが……あんたがここに来た理由?」
 キッチンカウンターの脇に立っていたアラタはこくりと頷いた。
「半年前、たまたまちょっとした怪我をして病院に行った時、βじゃなくてαだと判明した。しかしΩのヒートに今まで一度も影響を受けていないのはおかしい、と」
「それで怪我とは別件で捕まったわけか」
 旭はアラタの横をすり抜けてリビングのソファへ向かう。すると、彼も大きな図体でのすのす後をついてきて、旭の隣におとなしく座った。
「まずは国立のABO型研究センターに送られた。そうだろ?」
「ああ。何度も検査を受けたが、結果はαだった」
「今まで学校の成績とかで気付かなかったのか?」
「成績は良かった。が、それは自分の努力によるものだと思っていた」
 ちらりと横目で見えたアラタには、特に自慢気な様子もない。寡黙で努力家、と言われれば確かに彼はそんな性格な気がした。
「この研究所がどういうところかは分かってるな?」
「国立ABO型研究センターと共同研究をしている……確か白峰製薬という会社の研究施設だと聞いている」
「その通り。ここは単なる一企業の研究所のようでいて、国ともしっかり繋がりがある。信じられるか? こんな軟禁生活をさせるような施設を国が容認してるんだ」
 ゆったり足を組んで座っていた旭は、ぼんやりと天井を見上げた。最後に地上階へ行ったのはいつのことだろうと思い出してみるが、残念ながら記憶の彼方だった。
「君の怒りはもっともだと思う」
 隣から聞こえた悠長な声に、旭は思わず舌打ちした。
「俺だけじゃなくてさ、お前も閉じ込められてるんだぞ? そういえば自分から了承したって……なんでそんなこと」
「特別にフェロモンの強いΩがいる、そのΩの発情なら俺にも反応が起こるかもしれない、と言われた。それで俺の身体に何が起こっているのか手がかりを掴むことができると」
 表情も変えず、何のしぐさも見せないアラタから、今の彼の心境を推し量ることは難しかった。
「分からないな。Ωの迷惑な発情行為に影響されないαなんて、そのままでいいじゃねーか。不都合ないどころかそっちの方が便利だ。お前がこんなところに来てまで原因を追究する必要あるか?」
「αがΩの発情に耐えるための薬を開発したいと言われた。Ωに妨害されずα同士で種を保存していくために不可欠な研究だ、と」
 Ωはやはり社会の――αの害悪なのか。旭の腹の底がふつふつと沸き立った。
「それで、α様にお相手してもらえなくなったΩは自然と絶滅していくってことか」
 嫌味っぽくそう言ったところで、ようやくアラタの鉄面皮にひびが入った。
「……そう、だろうか」
 迷いを見せた彼に向かって、すかさず追い打ちをかける。
「何にせよ、お前はαをΩから守るための研究に協力することにした。Ωの俺を利用して」
 わざとアラタの顔を下から覗き込むようにすると、彼の喉仏が一回ごくりと動いた。
「俺、は――
 彼はそれきり何も言わなくなってしまった。無言で何か考えているのかもしれない。待っていたら次に口を開くのがいつになるか分からないので、旭はさっさと話を進めることにした。
「で? 次の発情期、どうなれば都合がいいんだ?」
 そう話しかけてやると、彼は旭に焦点を合わせて思考の世界から戻ってきた。
「俺がもし君の強力なフェロモンに反応を見せたら、それはフェロモンの受容体が鈍くなっていたということだ。その場合、俺はここから解放されて、白峰製薬は俺の受容体システムを徹底調査、新薬開発を行うと聞いている。しかし、君の発情にすら反応を見せない場合は、何らかの手がかりが得られるまであの手この手で実験が継続されるらしい」
「つまり……だ。お前をさっさと追い出したいなら、次の発情期でお前を発情させればいいんだな?」
「そういうことだ」
「それで、その後の新薬開発がうまくいけば、αの身体はΩのフェロモンを弾けるようになる。フェロモン攻撃のできないΩは滅亡。まさにハッピーエンド」
 旭の言葉に、アラタはまた俯いてしまう。
 αのお前がなんでそんな顔してんだよ。
 旭には彼の考えが全く理解できなかった。
「Ωなんていなくなった方がいい。αのためだけじゃない。こんな扱いを受ける不幸なΩがもういなくなるなら、それはΩのためにもなる」
 最初からΩなどという種がいなければ平和だったのに。旭の脳裏に一瞬両親の顔が思い浮かぶ。思い出したくない記憶に引きずられそうになったその時、アラタが声を発した。
「不幸なΩはいなくなって然るべきだ。が、そのためにΩ自体を消す必要もない。生物の進化上、多様性というのも大事だ」
「……! 今更綺麗ごと言うなよ? お前が協力してるのはな、過激なΩ絶滅運動論者と何も変わらない」
 あからさまにΩを見下すαより、淡々とした今のアラタの言葉の方が苛ついた。悪を自覚している者よりも、無自覚な偽善者の方が性質が悪い。
 怒りに震えた旭がぎゅっと唇を噛むと、不意に旭の手が温かいものに包まれた。
「俺がもし好きになった人がΩだったら、俺はきっとそのΩと一緒になる。発情を抑える薬があろうが、なかろうが」
 アラタの手が旭の硬く握られた拳をやさしく包み込んでいる。あまりの驚きに、旭はそれをふりほどくのも忘れてしまった。
「生殖本能を抑える薬ができれば、心で相手を選ぶことができる。発情やフェロモンがなくとも、人間性の優れたΩは誰かに選ばれて子をなす。αの発情が薬で抑制されればΩが絶滅するなんていうのは、君の幻想に過ぎない」
 旭は思い切り頭を振って否定した。
「Ωは生殖のためだけの生き物で、いい子孫を残したいαにとっては邪魔者だ――そう扱ってきたのは他でもないお前たちだ。今更人間性だの心だの、それこそ何も知らないαの幻想だ。口ではそんなこと言ったって、どうせαは理性でαを選ぶ」
 優秀な子供を残そうと思えば、心も本能も無視して理性的に振舞うのが一番だ。αはそんな合理性や論理的思考が大好きだから、きっとそうするだろう。旭にはそうとしか思えなかった。
 アラタを睨もうと顔を上げたら、彼もしっかりと旭を見つめていた。目が合って身体が熱く硬直する。
「ならやっぱり確かめよう。俺がこの研究に寄与して新薬が開発された後、Ωがどうなるか」
 ヒートしたΩを見ても発情して襲ってこないα。
 Ωを社会の恥として忌み嫌わないα。
 運命の番となるα。
 そんなものいるわけがない。
 旭は無我夢中で彼の手を振りほどき立ち上がった。このままだと深みに嵌ってしまうような気がしたからだ。
「どうせ俺はずっとここで幽閉生活だから、外でΩがどうなろうと関係ないけどな。次の発情期が楽しみだ。とっとと追い出してやる」
 挑発するようにそう言ったが、アラタはもう無表情に戻っていて、何も反応しなかった。
「そうそう、パジャマ忘れたって? 部屋着に着替えなかった時点で怪しいと思ってたんだよな」
 旭はリビングの棚に入っていた衣料品のカタログを取り出すと、そこから彼に欲しいものを選ばせた。
「これを四着」
「何で同じもの四つも? せめて色変えるとかするだろ。もしかしてクローゼットに同じ服いくつも持ってるタイプかよ。大体このいかにもパジャマって感じのがおっさんくさい」
 旭が言いたい放題していると、アラタはジロジロと旭の着ている部屋着を観察した。ゆったりとしたクルーネックのラグランシャツと、膝下丈のハーフパンツ。先ほどシャワーを浴びた後に着替えたこれが、旭のパジャマ代わりだった。
「何見てんだよ」
「それと同じのを着れば文句はないのか?」
「ガキじゃないんだから、俺の真似したり俺の後くっ付いてきたりしなくていいんだよ!」
 相変わらずそんなやり取りをしながらアラタが選んだのは、微妙に色の違ういかにもなパジャマ四着だ。
 そのままアラタをバスルームへと追いやってから、旭は勝手に彼のための私服を選ぶことにした。いつもあんなサラリーマンじみた格好で生活されるとやりにくくて仕方ない。しかし出会ったばかりの彼がどんな服を好むのかも分からず、旭は無駄にウンウン唸りながらカタログのモデルと睨めっこをした。良さそうな服を見つけては、頭の中で彼にそれを着せてみる。
 いや、待てよ? 何であんな奴のためにここまで悩んでやらないとならないんだ?
 我に返った旭は誰も見ていないのに急に恥ずかしくなった。わざとオヤジくさい服でも選んでやろうかと思いつつ、結局薄手のニットやリネンのシャツにいくつかのボトムスを合わせてやることにした。
 暦の上では三月のはずだが、空調の効いたこの監獄では季節などないに等しい。サイズさえ合えば彼は文句を言わないだろう。
 内線で旭が一通り注文をしてやってから振り返ると、アラタが至近距離で待っていて飛び上がりそうになる。
「で、出たなら出たって言え。服、明日届くってよ」
 旭はそう言ってから寝室へ向かった。
「それなら、今夜はどうすればいいんだろうか」
 後をついてきたアラタが独り言のように呟いた。
「知るか! パンツ一丁で寝たら?」
 旭はどかりとベッドに座ってアラタを睨む。自分で考えろという意味であり得ない提案をしたつもりなのに、彼は本気でシャツのボタンを外し始めた。
「おい、マジかよ」
「空調も効いているから、確かに一晩くらいなら裸で寝ればいい」
 旭の制止も無視してアラタはシャツとスラックスを脱いだ。細身に見えていたのに、風呂上がりでしっとりとした彼の上半身には、意外と筋肉が付いている。
 視線を下ろした先にあるボクサーを見て、旭は無意識に唾を飲んだ。αのそこは下着の上からでも分かるくらい大きい。発情期でもないのにそんなところを見て疼いてしまうΩの性に、旭は少し絶望した。
 アラタはそんな視線に気付いた様子もなく、旭が座っているのとは反対からベッドに上がる。旭の背後で彼が横になった気配がした。
「お前ってさ、ホントにインポじゃねーの?」
 気が付いたら思わずそんなことを口走っていた。
「違う」
「じゃ、発情しない普通のセックスはできるってことか」
「おそらく」
「おそらくってどういう意味だよそれ」
「やったことはないが多分できる、という意味だ」
「は? やったことない?」
 思わず振り返ってアラタの顔を見ると、彼はゴロンと向こう側を向いてブランケットを被った。
「人気者のαなら、女なんていくらでも――
 そこまで言ってから、彼がαだと発覚したのがつい最近だったことを思い出す。しかしβだったとしても、彼の整った顔や長身を考えると、この外見年齢で未経験というのは意外だった。
「あんた何歳?」
「……二十、九」
「ふーん」
 確かに彼の無表情は近づき難い上、性格はかなり内向きで難がありそうだ。これでもし仕事が低収入だったとしたら、女が寄ってこないのも無理はないかもしれない。
 未だ不可解な点の多い男を旭はしげしげ見つめる。電気の消えていない室内では、彼の耳が赤くなっているのも見えてしまった。
 あの無表情なαが照れているという事実に、旭は少し気分が良くなった。
「なら……俺がインポじゃないか確かめてやろうか?」
 そう言うや否や、旭は彼のブランケットを引き剥がした。彼の背後から下着の前に手を這わせ、その中に納まっているモノを布越しに捕まえる。まだ勃ってもいないのにそこはズッシリとしていた。
「アラタ」
 名前を呼んでやると、彼は面白いくらい身体を硬直させた。
「次の発情期までにさ、名前で呼んで仲良くなってた方が欲情するよな? それに童貞なら刺激の強いことにも少しずつ慣れとかないと」
 やわやわと下着の膨らみを撫でてやると、彼はついにガバリと身を起こした。
「君、は――
「旭」
 赤くなっている男に向かって、旭は妖艶な笑みを浮かべた。
「あさ、ひ……」
 魔法にかけられたかのように、アラタがたじたじと名前を呼ぶ。その隙に旭は彼の股間に手を伸ばした。身体を起こしてくれたおかげで、堂々と正面から彼のそこを見ることができる。
「ちょっと触っただけなのに……」
 芯を持ち始めた茎を布越しに優しく擦ると、そこには徐々にくっきりとした形が浮き出てきた。
「すご……どんどんでかくなる。すぐ先っぽはみ出すんじゃねーの?」
 口ではそんなことを言ってからかっていても、旭は内心この布の中身が早く見たくてうずうずしていた。ちらっと上目遣いでアラタを見ると、彼は真っ赤な顔をしながらも、旭に触られているところを凝視している。
「さすがに一人でオナった経験くらいはあんだろ?」
「それは――
 言い淀んで視線を彷徨わせているのはイエスの表れだ。
「どんなオカズで抜いた?」
 彼は答えようとしない。罰と言わんばかりに下着を引き下げてやると、ゴムに一度引っ掛かった先端がぶるんと顔を出した。
「こんな立派なもの持ってるのに未使用とはね」
 旭が亀頭に触れると、アラタが息を呑む気配がした。旭は彼の先端を軽く捏ねくり回してから竿の方へと手を這わせる。布越しではなく直に触れた欲望は熱く脈打っていた。
「こんな太いのでかき回されたらどんな女も泣いてよがるだろうに……もったいないな」
 両手で包んで扱くと、そこはまだまだ固くなった。先端の割れ目からカウパーが滲み、αのオスの匂いに旭の身体の奥が熱くなっていく。
 コレがほしい。この大きなモノを入れられて、亀頭球でノッティングされたい。αの濃い精液で種付けされて、αの子を孕みたい。
 旭の意識など全く無視して、内なるΩの本能がそう叫んでいた。
 熱に浮かされたようにうっとりとアラタの昂ぶりを見ていた旭は、おもむろにそこへ顔を寄せると、先端をぱくっと口に咥えた。
「あ、旭……?」
 戸惑うアラタを目だけで見つめ、旭は口に含んだ先端にちろちろと舌を這わせた。大きすぎて全部を口に含めないからこそ、先の方ばかりを重点的に責める。汗なのかカウパーなのかも分からない味が口の中に広がって、旭は無意識に自身の腰を揺らめかせていた。
「ん……おっひぃ……」
 咥えたまま旭が喋ると、彼のそこは我慢の限界を訴えてピクピク反応した。じゅぷじゅぷとわざと音を立てて吸い上げ、さらに興奮を煽っていく。
 先端に思い切り舌を押し付けたその時、旭は勢いよく突き飛ばされて咥えていたモノを離してしまう。次の瞬間、旭の顔には白いものがドロリと付着した。
「す、すまない――
 アラタが慌ててベッドサイドにあるティッシュに手を伸ばす。旭は頬を伝う白い液体を指で掬い、顔に出されたことを自覚した。
「うわ、何だこれ、めちゃくちゃ濃い……溜まってた?」
 アラタは何も言わずに甲斐甲斐しく旭の顔を拭いていく。
「こんな濃いのだったら、俺ももしかしたらやっと孕めるかも……なんてな」
 そう言い残してベッドから降りようと膝立ちになると、アラタは素早く旭の腕を掴んで引き留めた。
「何だよ、顔洗いたいんだけど」
 旭は平静を装ったつもりだったが、アラタの手が旭の股間に伸びてきて、その中心をぎゅっと握られてしまう。
「旭も勃ってる」
 気付かれていた――旭の脈拍が急上昇していく。
「さっきも腰が揺れていた」
 彼はそう言って旭のハーフパンツと下着を易々とずり下ろした。
「だ、駄目……だって」
 旭は力なく制止しながら、上向いた自身の股間を手で隠そうとする。生殖能力のないΩの性器はβ男性の平均より小さい。旭にとって、そこを見られるのは屈辱だった。しかしアラタは旭の手を払いのけて、先程旭がしたのと同じようにそこを口に含んだ。彼は旭からされたことをそのままそっくり真似して、旭の先端を舌先で嬲る。
「……や、め……」
 彼の大きな口に旭のそこは根元まですっぽり咥え込まれてしまう。熱い舌が竿全体にねっとり絡みついたかと思えば、今度は先端の弱い部分を甘く吸い取られる。旭は熱い吐息を噛み殺しながら、ぎゅっと目を瞑った。
 ムカつくαが童貞でちょっとからかってやろうとしただけなのに。何でこんなことに――
 旭は悔しさと羞恥と快楽の間で悶えた。
「……っも、や、だ……ぁ」
 アラタが子供のようにちゅぱちゅぱとそこを吸う音すら淫靡に聞こえる。ちらっと瞼を開けると彼と目が合ってしまい、旭はぶるっと身体を震わせて達した。
 アラタは何も言わずそのままゴクンと出されたものを嚥下する。旭のモノからやっと口を離した彼は、指で唇を一拭いした。
「な、なにすんだ、ヘンタイ……!」
 旭は慌てて半分ずり下がっていた下半身の衣服を戻した。
「先にこういうことをしてきたのは君の方だ」
「そ、そうだけど……!」
「嫌いなはずのαにどうしてこんなことを?」
 痛いところを突かれ、旭はぐっと喉を詰まらせた。
「そんなの、お前が童貞だから、からかってやるつもりだっただけで」
「しかし君自身も興奮して勃起していた」
 執拗な追及に耐え切れず、旭はついに爆発した。
「どうせ俺はαのチンコに弱い淫乱Ωだよ! 嫌だけどどうしようもないんだ。身体が勝手に疼く。それがΩって生き物だ」
「それは、君がそう思いたいだけなんじゃないか? Ωだから仕方ないと――
「お前に何が分かるんだ。発情して心が身体に支配された経験もないくせに」
 αなど憎くてたまらないはずなのに、発情期に入るとαを甘く求めてしまう――あの屈辱がαに分かるはずもない。
 旭はキスしそうになるほどの至近距離までアラタに顔を寄せる。
「教えてやるよ。身体の欲求に逆らえなくなる感覚も、初めてのセックスも、次の発情期で俺が全部教えてやる」
 アラタが居心地悪そうに目を逸らしたのを見て、また少し優位を取り戻す。旭は硬直する彼を置いてベッドを降りた。
 次の発情期までおよそ二週間。あの男がどんな風に発情して自分を犯すのか、想像するだけで旭の中心がずくずく疼いた。
 とりあえず彼に出された顔を綺麗にしようと洗面所で顔を洗った旭は、タオルで顔を拭いた後、鏡を見てビクッと肩を震わせた。
「だから! なんで! どこでもくっ付いて来るんだよ!」
 鏡の中、半分開いたドアの隙間でアラタはじっと旭を見ている。
「旭がちゃんと寝室に戻ってくるか気になって」
「なんっなんだホント! そんなに俺と一緒にいたいわけ!?」
 自棄糞になった旭の言葉に、あろうことかアラタはこくんと頷いた。真っ赤になった旭がスタスタと寝室へ戻る間、アラタは母鳥を追う雛のようにその後を追いかけた。

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