俺がこのゲイビ制作会社に入ってもうすぐ二か月。今日も雑多な仕事が俺に飛んでくる。まあ、バイトだから仕方ない。
「春日君、このHDDに移しといてほしいデータがあるんだけど」
俺に声をかけてきたのは、主に監督業をしてる宇治平さん。その手には外付けHDD。
「なんすか、コレ」
「五十嵐君の私物だから壊すなよ~」
そういわれて、五十嵐君――五十嵐浩司の顔を思い浮かべる。俺より半年くらい先に入った大学生のアルバイトだ。
フリーターの俺より年上の二十一歳で、結構いい大学に通ってる。正直なんでこんな会社でバイトしてるのか謎だった。去年の秋に起こった「五十嵐君騒動」を聞くまでは。
超カッコいい大学生二人組が出演希望してきて、それはそれはすごいセックスを撮らせてくれたが、結局一般販売はしないことになり、その代わりに五十嵐君をバイトとしてゲットしたのだそうだ。一部に尾鰭がついて、この話は社内で半分伝説化しつつある。
ちなみにその時の五十嵐君のお相手は、現在も彼氏として仲良く続いているらしい。名前、なんだっけ……随分かわいらしい名前だった気がする。見た目がとにかくいいらしいが、俺はまだ見たことがない。
ただ、五十嵐君がその彼氏のことで何か悩んでるらしいことは知ってる。俺がここに入ってすぐの頃、休憩中に宇治平さんと五十嵐君が話していたのを、ちらっと聞いたからだ。盗み聞きとも言うけど、じっくり聞いてないから許してほしい。
「春日君聞いてる? この前例のマジックミラー企画の関係でセットの下見してきたんだけどさ、その時のデータを五十嵐君に渡すことになってるんだ。あ、データの中身は絶対見たらダメだからね」
宇治平さんは「僕のパソコンのデスクトップにデータフォルダあるから、後はよろしくぅ」と言って夕飯を食べに行ってしまった。いつ見てもフリーダムな人だ。
指定された通り宇治平さんのデスクへ向かう途中、当の五十嵐君とばったり会ってしまった。
俺もかなり大柄だと言われるのに、そんな俺とあまり目線が変わらない。背は俺の方がでかいけど、五十嵐君は姿勢がスッとしてて実際より背が高く見えるんだな。あ、足の長さだけなら多分俺の負けだ。
「あー、えと、春日君、お疲れ様。今日は用事があるから、少し早めに失礼します」
イケメンに穏やかな笑顔で挨拶をされて、俺はホワホワしながら頭を下げた。
人の顔と名前を覚えるのが得意じゃないらしいけど、もう俺の名前は覚えてくれたみたいだ。
春日君は大きな犬みたいだから覚えやすいキャラなんだよね――なんて言ってたっけ。ニコニコしながらあんなこと言われたら、俺はもう自ら大型忠犬になる勢いだ。
「あ、春日君……満月花堂って店のパンプキンケーキ食べたことある?」
「いや、ないっす」
「そっか。うーん、本当に一日限定三十個の美味さがあるのかな」
「並ぶんすか?」
「うん、いつも夜の八時からなんだって。食べたいってうるさい奴がいるから」
五十嵐君は苦笑いしてから、「それじゃ」と手を振ってくれた。推しアイドルにお手振りをもらえたファンの気持ちが少し分かる。
長ーい足で優雅に去っていく五十嵐君を見送ってから、俺は再び仕事に戻った。
食玩フィギュアまみれの宇治平さんのデスクについて、言われた通りパソコンのデスクトップを見る。「五十嵐君へ」というめちゃくちゃ分かりやすい名前のフォルダが、画面ど真ん中に置かれていた。
うーん、中身は全部動画のデータだ。隠しカメラもメインのカメラも全部あるっぽい。
しかしこれ、中身はなんだ? セットの下見をした時の映像? どうしてそれを五十嵐君の私物に?
宇治平さんはシチュエーションを大事にするタイプの監督だけど、一体どんな下見で企画のインスピレーションを……?
俺の中で膨らんだ疑問が指まで伝わって、カチカチッと一つデータを開いてみた。
これはシャワールームの監視カメラだな。こんなところも使ったのか?
しばらく待っていると、五十嵐君ともう一人黒髪の男が入ってきた。
明らかに人工的に染め直しましたって感じの黒髪……誰だ? 斜め上からのアングルだから、顔は少し見にくい。でも通った鼻筋や大きな瞳から、美形なのは明らかだ。
首を傾げる俺の前で、黒髪の男は五十嵐君に抱きついた。
「ちょ、薫」
五十嵐君の言葉で思い出した。このかわいい名前、五十嵐君の彼氏だ。アイドル系と言われてるのも納得の容姿。
五十嵐君も確かにイケメンなんだけど、方向性が違う。華やかでぱっと見イケメンだって分かるのがこの薫君。五十嵐君は目立ちすぎずお行儀のいい俳優系イケメン。
二人の外見を観察している間に、ハグがどんどん激しくなっていく。まさか。
「だって、歩いてる間に中からどんどん垂れてきてムズムズすんだもん」
「あんなとこで薫が誘うから」
「まさか中に出されるとは思わなかった! 遅漏スキルどこやったんだよ」
どうやらこのマジックミラーハウスの外で一発ヤってきたらしい。
カメラの中で薫君が必死に背伸びする。五十嵐君がそれに応えるように顔を寄せて……うわ、ベロチューだ。
チュパチュパ、ピチャピチャ――しばらく二人でいちゃいちゃしてから、五十嵐君はゆっくり唇を離した。
「カメラがあるとこは嫌なんじゃなかった?」
「シャワー出したら曇って見えなくなるかも。なんかそんな小説読んだことある気がする」
「適当な監視カメラならまだしも、一応ここ撮影用の設備だぞ」
そうそう、曇り止め機能はバッチリ……だろうか。この会社、金ないからなあ。
「ん……えと、多分これ動いてないって、うん」
いや、動いてます。俺の心の声は過去の薫君には届かない。
薫君は五十嵐君の水着の前を掴んで、手をモソモソ動かし始めた。それに応えるように、五十嵐君も薫君の股間に手を伸ばす。
マジで……? これから……?
ゴクリと息を呑む俺の目の前で、二人が扱き合う映像が流れる。二人のサーフパンツがテントを作り出した頃、薫君は我慢できないって感じで五十嵐君の水着のウエストに手をかけた。
ゆっくりずり下げられると、五十嵐君のペニスは一度下まで引っ張られてから、ぐんっと上に反り返って出てきた。
うわ、うわあ……み、見てもいいんだろうか。いつも穏やかなあのイケメン君の勃起チンコ……顔に似合わず大きくて凶悪そうだ。
薫君はその大きなチンコを大事そうにコシコシしながら、自分の水着もずり下ろす。プルンと飛び出たのは、ピンクの亀頭を持った中サイズチンコ。
ああ、どんなにアイドル系でキラキラしたイケメンでも、股間には付いてるんだよなあ……。
二人はまたチュパチュパ音を立ててキスをしながら、お互いの勃起を擦り付け合う。扱き合うだけかと思いきや、五十嵐君の指が薫君のアナルに向かった。
片方が知り合いの五十嵐君だから罪悪感がすごい。でもここで見るのを止める選択肢は……ないっす。すみません。
「ぁ、出てくる……ぅ」
甘ったるい声を上げて薫君が身を捩る。
「薫、ケツこっち見せて」
言われた通り、薫君は壁を向いて手をつく。そして、その白いお尻を五十嵐君に突き出した。
五十嵐君の指にその穴をかき回されると、その身体はビクビクしなった。多分中出しされたのが溢れてきてるんだろうな。
カメラもうちょっとズームしてくれよー。って思ったけど、多分他のアングルからの隠しカメラには映ってるはずだ。クパクパする穴から白いのがトローリしてる映像が。でも今これを一時停止してそっちのデータを探す気にはならない。
「ん……綺麗にする前に、もう一回」
薫君はアナルをかき回す指を引き止めて、五十嵐君のそそり立つペニスに手を添える。いつも優しそうな五十嵐君のイケメン顔が、ほんの少し困ったみたいに躊躇う。
「薫が誘ったんだからな」
一瞬、五十嵐君がこのカメラをチラ見した。カメラの録画回しっぱなしなの、知ってて黙ってる……?
次の瞬間、五十嵐君は薫君に誘われるようにして……グチュッと一気に突き刺した。そのまま待つこともなく、すぐにグッチュグッチュ激しいピストンが始まる。
「ん、ん……っ、は、ぁ」
薫君の出す色っぽい喘ぎ声が、狭いシャワールームに反響する。それに呼応するように、五十嵐君の動きも強くなっていった。
パチュッ、パチュッ。濡れた音と肌がぶつかる音が混じる中、二人はお互いの身体に夢中だった。
二人とも見た目はカッコいいのに、行動はまさに盛ったオス同士って感じだ。いつも温厚そうなあの五十嵐君が、本能のままにガクガク腰を振ってる。薫君の方も、あんあん喘ぎ声がだだ漏れだ。
見たらいけないプライベート中のプライベートに、俺の股間まで硬くなり始める。
「ぁ、こー、じ……好、き……」
息も絶え絶えに薫君が健気なことを言う。これはたまらない。股間直撃。
どうやら五十嵐君も同じ気持ちみたいだ。薫君の腰を自分の方にグッと密着させて、奥の方を小刻みに素早く突きまくり始めた。
すご……AVに出てるプロのタチ並みの腰使い。普段シモの気配を感じない人も、裏ではこんな激しいセックスしてたりするんだよな……。生々しい。
「ぁ、あ……っ、も、ィくっ、こーじ、も……っ」
薫君が自分からも腰を振る。五十嵐君の方もラストスパート。
上からは二人の結合部がよく見える。五十嵐君のペニスが少し抜かれるたびに、白くてネバネバしたものが纏わり付いてるのが見える。
五十嵐くんのすげー濃そう。まさに種付け感。
「ゃ、あ、ぁ……そこ、そこ、しゅき……、いいっ」
薫君、もう舌が全然回ってない。身体も声も溶けたアイスみたいだ。よく見たら、薫君の前の壁に白い液体がぴゅくぴゅく飛んでる。
五十嵐君が数回パン、パンと強く薫君のお尻にぶつかるみたいに差し込んで、ピタリと動きを止めた。
あー、下からのアングルのデータを見たら、薫君にタマを押し付けながら中出ししてるアップが映ってるんだろうな。
二人はしばらく繋がったまま、はあはあ息を整えていた。
俺まで息が弾むような激しいセックスだった……。ていうか、股間がヤバい。完全に勃っていて、一度ちゃんと抜かないとダメっぽい。
仕事を思い出した俺は、データを全選択してから預かった外付けHDDにコピーする。コピー残り時間を示すバーを確認してから、俺はいそいそ席を立った。
部屋を出てトイレへ行こうとすると、エレベーターホールにまさかの人物が立っていた。
か、薫君だ、本物の。すげー、確かにかっこいい。なんていうか、オーラがある。
俺は思わず壁の陰に隠れてしまった。いや、向こうは俺のこと知らないんだから、隠れる必要なんてないはずだ。でも……なんとなく。
それにしても、さっきまで見ていた甘々のエロい男の子と、今目の前にいるカッコいい男のギャップがすごい。
壁にもたれかかった薫君は携帯電話で誰かに連絡してるみたいだ。スキニージーンズの細くて長い足の先で、靴がイライラ床を叩いている。
「あ、出た。コージどこにいんの? バイト先来たらもう帰ったって言われたんだけど」
よりにもよって、電話の相手は五十嵐君。ただでさえあの動画を覗き見した罪悪感があるのに、また俺はこんな盗み聞きを……。
「は? だって水曜は八時までって言ってたじゃん。まだ七時過ぎだぞ」
そうそう、今日の五十嵐君は用事があるからって予定より少し早めに帰ったんだっけ。
「え、マジで? 並んでくれてんの? 一日限定三十個のカボチャ味だぞ? た、食べるっ」
カチカチカチカチ……って何の音かと覗いたら、薫君がエレベーターを呼ぶボタンを連打していた。すごい……餌付けされている。
「う……なんでって、ち、近くまで来たから? コージの職場環境を見てやろーと思ってさ。か、可愛い子犬系の後輩君とか?」
そんな後輩いただろうか……。五十嵐君が犬に形容したのは俺だけのはずだ。でも俺は大型犬で可愛くもなんともないから、きっと無関係だろう。
チン、という音に続いて、エレベーターのドアがガーッと開け閉めされる。その後はひたすら無音。
壁の陰から顔を出すと、そこにはもう誰もいなかった。
なんだか、幻みたいだったな。あんなフツーにカッコよくしてる男が、実はアナルまで開発済みだなんて、現実じゃない。うん。
さっきの動画を思い出したらまた股間が熱くなってきた。とりあえずトイレで一回抜かないと……。
その時、薫君を下ろしてまた上がってきたエレベーターがこの階に止まった。中から出てきたのは――。
「う、宇治平さん」
「あれ、コピー終わった?」
「今コピー中で、待ってる間トイレにでも行こうかと」
コピーが終わるまで暇なのは嘘じゃない。宇治平さんは「ふぅん……」なんて言いながら俺をジロジロ見てきた。
「その股間、キツそうだねえ」
バレてる。服の上からチン長が測れるという噂は伊達じゃない。
「もしかしてアレ……見ちゃった?」
俺は逆らえず無意識にこっくり頷いていた。絶対見るなと言われていたのを今更思い出して奥歯が震える。
「春日君、やっぱりバイトじゃなくて今度出演してみようよ。ガチムチ受けでも、タチでもどっちでもいいからさ?」
ヤバい。目が本気だ。
「す、すみません! お断りします!」
俺はブルブル震えながらトイレに逃げ込んだ。
仲良し男子大学生二人のエロ動画を見た俺は、今後エロ動画の出演者にされてしまう……かもしれません。
今晩中に一気に完結まで更新させる!って思った時に、拍手お礼も同時更新しなきゃ!って思い立って慌てて書いたもの。
いつも受け視点or攻め視点で書きますが、第三者目線で見ると急に見え方が変わるというか、「そういえばそんなイケメン設定だったね」みたいな新鮮な気持ちでニヤニヤできるんじゃないかなと…。
他の小説のメタなネタもぶっこんで楽しくすらすら書けました。