二人の十年後のお話です。
冒頭は二人が今どんな職業でどんな生活をしているかの説明パートですので省略。
途中から一部抜粋。
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十一月七日の夜は花の金曜日ということもあり、多くの店が賑わっている。浩司は薫を会社の前まで迎えに来ると、行先も告げずに電車に乗った。どこへ行くのか聞いても、「美味い飯屋があるらしいから」と歯切れの悪い返事が返ってくるだけだ。
彼が連れてきてくれた店は、確かに居酒屋と創作料理屋をいい具合に混ぜた穴場だった。だから最初に感じていた不信感も忘れ、途中からいい気分で酒と食事を楽しんだ。
終電間近に店を出て、てっきり駅へ向かうのかと思いきや、浩司は駅の近くにある公園へと入った。
「なあ、どこ行くんだ? 電車なくなるけど、どっか泊まり?」
「薫、まだ気付かないのか? あ、来た」
浩司が向いた先には、カメラを構えたおじさんが。
「宇治平さん!?」
「久しぶりー、柊君相変わらずカッコいいね。もっとくすんだ大人な感じになってると思ってたけど、まだ現役のキラキラだ」
「子供っぽいって意味? 俺だってもう立派な社会人なんだけど」
大人になった自分の全身を見せつけるように胸を張る。自由な社風のため、シャツの上にカーディガンを羽織ったカジュアルな出で立ち。女除けのために髪を染めることはやめたが、その黒髪もかなりラフにセットされている。薫自身はオトナの社会人のつもりだが、大学生と言っても余裕で通じるだろう。隣の浩司がしっかりとスーツを着こなしている分、並ぶと余計に社会人と大学生の兄弟のようだ。
「はいはい、ところで今夜一晩泊まれるホテルの部屋が一つ余ってるけど、どうかな?」
宇治平のその一言で、薫はやっと理解した。十一月七日の夜、正確には日付が変わって十一月八日は、浩司と宇治平に騙されてラブホテルに連れ込まれたあの日だ。今日でちょうど十年になる。
「やっと気付いた?」
浩司が呆れたように言う。
「あ、さっきの店って」
「うん、店は変わったけど場所はあの日と同じ」
言われてみれば、あそこからこの公園までのルートには覚えがあった。
「じゃあ宇治平さんの言ってる余ってる部屋ってのも十年前の……?」
「その通り。あっちは今も変わらず営業中」
十年前とあまり変わらないいたずらっぽい笑顔で、宇治平は親指を立てた。
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「おー、なんかちょっと改装されてる?」
ピカピカのロビーを見渡す薫を、宇治平のカメラが捉え続けている。そして案内されたのは、あの日と同じ部屋。当時南国リゾート風だったその部屋は、少しラグジュアリーな印象に変わっている。
「はいはい。じゃあさっそく二人ともそこ座って」
宇治平に言われた通り、薫と浩司はベッドの端に腰かけた。
「二人とも、名前は何て言うの?」
白々しくあの日の質問を再現されると何だか楽しくなってきて、薫はノリノリで答え始めた。
「俺は薫。こいつはコージ」
「何歳?」
「俺もこいつも……三十歳。ま、まだまだ現役ピチピチのサラリーマン」
「二人は友達なんだ?」
そこで薫は急ブレーキをかけられたように止まる。
「え、いや、その、なんていうか」
「恋人です。同棲中の」
しれっと答えた浩司に、薫の顔はみるみる熱くなる。
「なるほどー、じゃあ話は早いね。ラブラブカップルなお二人においしいミッションを用意しました」
宇治平がカバンから取り出したのは、またもや一部が隠されたパネルだ。
「はっ、俺たちもう大人なんだぞ。お金になんて困ってないから無駄無駄」
鼻で笑い飛ばすと、宇治平は涼しい顔で受け流した。
「うん、社会人になるとお金は溜まるよね。でも反対に、時間や自由は?」
「ぐっ……」
薫が言葉に詰まったタイミングで、宇治平はパネルに貼られた薄紙をぺらりと剥がした。
『指定の衣装を着る……一日五十個限定! 満月花堂のパンプキンパイ
指定の衣装でプレイ……ドラゴンファンタジーⅦリメイク版限定デザインPS5本体』
「あ、俺が予約戦争負けたやつ……」
食い入るようにパネルの内容を見ていると、宇治平が得意げに笑った。
「並ぶ時間がなかったり、予約時間に張り付けなかったり、社会人にとっては何かと限定品ってつらいよね」
その通りだ。パネルに書かれた二品もまさに薫が泣く泣く諦めたものだった。
「指定の衣装……なんだろ?」
「はーい、あのクローゼットの中にあるから後で見てね」
「……プレイって何?」
「衣装を着るだけじゃつまんないから、それでちょっとなりきってもらおうかなと」
そもそもその衣装を見ていないため、何になりきるのか想像できない。それに何より、パネルの一番下にはやはりまだ隠れた部分がある。
「あ、ここが気になる? オス盛りのサラリーマンは貪欲だね」
よく分からないことを言いながら、宇治平が「えいっ」と最後の一部を剥がした。
『中出し一発ごとにシークレットプレゼント追加!』
シークレット……喉がごくりと鳴る。
「おお? 柊君、結構気になってるね?」
「べ、別にそんなんじゃない、けど……」
「まあまあ、一晩あるから二人でじーっくり考えてよ。どうせ恋人同士なんだから、難しいミッションじゃないと思うけどね」
そう言い残して宇治平がいなくなると、部屋の中が急に静かになった気がした。
「どうする?」
浩司がパネルをこっちに向けて聞いてきた。
「んー……まず指定の衣装が何なのか確認しないと」
ガラッとクローゼットを開けると、そこには二着の黒い服が掛けられていた。
「えーっと、学ラン?」
それはどう見ても、中高生の頃着ていたものとそっくりの制服だ。
「これ着るだけで、満月花堂のかぼちゃパイ? え、着るに決まってるじゃん」
てっきり際どいエロ衣装が出てくると思っていたが、こんなもので良ければ楽勝だ。
「コージも着るよな? ていうか二人で着ないとクリアになんないから、着てくれないと困る」
ハンガーごと浩司に押し付けると、彼は「別にいいけど」と涼しげに言った。
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ここから何がどういうわけかレイプごっこという名の無理矢理プレイが始まり、薫君はついに潮吹きまでさせられます。
その後はお口直しの甘々セックスでハッピーエンド。
景品パネルのシーンがちょうど改ページにかかってしまっている都合で、この辺り実際は修正されるかもしれません。
ところで、本サンプル中のドラゴンファンタジー7リメイク版とは全く一切何の関係もないのですが、FF7リメイク版は本当にPS4世代で出るのか、私気になります。