仲良し男子大学生二人の夏休み 前編 | fDtD    
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仲良し男子大学生二人の夏休み

前編

 暑い。寝苦しい。
 身体は寝たがってるのに、頭だけは不快感で覚醒してるような、そんな浅い眠りだ。
 そんな中で頭の中に流れるのは、夢みたいな、あるいは過去の回想みたいな景色。

 見慣れた実家のリビングで、中学生に戻った俺はぐったり伸びていた。
「暑いー。冷房もっと強くしようよー」
 エアコンのリモコンに手を伸ばすと、母さんがひょいっとリモコンを取り上げた。
「和希が風邪引くからダメって言ってるでしょ。来週になったら業者さんが薫の部屋にエアコン取り付けに来るから」
 和希――男みたいな名前の俺の妹は、リビングの隅っこで大人しく本を読んでいる。まだ十歳にもならないこいつは、生まれつき身体が弱い。だから俺の家はいつもこいつを中心に回ってる……気がする。
「俺はテレビのあるリビングでゲームがしたいの。和希が自分の暑ーい部屋で本読めばいいじゃんか。何で俺が自分の部屋に追い出されないとならないわけ?」
 こんなの贔屓だ。ソファの上でジタバタしたら、母さんが怖い顔で睨んできた。
「薫、もう中学生でしょ?」
 何だよ、男の俺にそんな女みたいな名前付けやがって。
 プイと顔を背けたら、和希がしょんぼり固まってるのが見えた。
 何それ。何で俺が悪者みたいになってんの。
 ジワッと涙が溢れそうになった時、家のチャイムがピンポーンと鳴った。
「ああ、さっき五十嵐さんから電話があったから、浩司君が来たのかも」
 インターホンに出た母さんが「あら、浩司君」と言うのが聞こえてすぐ、俺は玄関に向かう。ドアを開けたら、そこには同じ中学のコージが立っていた。
「薫、夏休みの自由研究レポートやった?」
「まだ! クワガタの観察したいって言ってるのに、父さんも母さんも虫取りに連れてってくれないんだもん」
 むくれると、背後から母さんの声が聞こえた。
「そんなの小学生がやる宿題でしょう? 今度郷土資料館に連れてってあげるって言ってるのに」
「自由研究レポートなんだから自由でいいのー!」
 母さんと俺がさっきの喧嘩の続きを始めそうになった時、コージが俺の腕を掴んだ。
「俺、海辺の生き物でも観察しようかなって思ってるんだけど、薫もどう? 近くの水族館にも行って調べれば、それなりのレポートになると思うんだけど」
「行く!」
 海だ! さっきまでの怒りなんてすっ飛んで、俺は諸手を挙げて喜んだ。
「もう少ししたらうちのお母さんが連れてってくれるから、それまで俺の家でゲームしよう」
「やるー」
 遠慮した母さんがコージに何か言うのを無視して、俺は自分の部屋にリュックを取りに行った。
 母さんは簡単なおにぎりと水筒を俺によこして、コージの母さんに電話をかけ始める。どうせすぐそこなのに、俺たちの母さんはお互い毎回出発と到着の電話をかかさない。俺たちもう中学二年生なのに、少しでも寄り道を許さない監視っぷりだ。
 母さんの電話が終わるのも待たずに、俺とコージは蝉がミンミン鳴く外の世界に出た。
 コージの家まで歩いて五分。こんなに近くに住んでるのに、小学校は学区が別々だった。だからこいつと会ったのは、去年中学受験して私立の中学に入ってから。
 受験勉強とかめんどくさいし、別に公立の中学でいいじゃんって思ってたけど、コージに会えたからやっぱ私立にしてよかったな、うん。男子校だから男しかいないのだけは心残りだけど。
 少し歩いたところで、コージが「そういえば」と話し出した。
「お母さんがさっきスーパーでアイス買ってきたから、一緒に食べられるよ」
「やったー」
 コージは俺が欲しいものを何でもくれる。まるで俺の心が読めるみたいだ。コージが俺の家族だったらよかったのに。
「昼間はクーラー効いたリビングでアイス食べられても、夜は暑くて全然寝られないよな」
 コージがふとそんなことを呟いた。
「んー……俺んち、昼間のリビングも暑いんだよな」
 さっきのことを思い出して、また少し腹が立つ。
「ああ、妹?」
「うん。母さんたちは和希のことばっかり贔屓するから。俺の部屋にエアコン付けて、俺のこと追い払おうとするんだ」
「自分の部屋にエアコンがあるなんて、俺からしたら羨ましいけどな」
 コージがまた「いいなあ」とぼやく。
「そ、そーかな?」
「そうだよ。俺なんて扇風機だもん。薫は夏も冬も自分の部屋を好きな温度にできるんだろ? 天国じゃん。これからは遊ぶの薫の部屋にしようよ」
 コージにそう言われたら、確かにその通りかもしれない。
「そ、そっか! そうだよな」
 テレビのゲームはできなくても、携帯ゲーム機なら俺の部屋で遊べるもんな。しかも俺の部屋なら母さんの監視も届かないから、勉強しなさいって怒られないし。
 最近覚えたオナニーするのだって、自分の部屋の方が便利だ。
 コージの家が見えてきて、俺は上機嫌で走り出し……身体が急にガクンと沈んだ。

「……は」
 目を開けると、薄暗い天井が見える。コージの部屋だ。昔遊びに行った実家の方じゃなくて、大学生になって一人暮らしを始めたコージの部屋。
 ああ、夢から現実に帰ってきたんだ。
 視界に入る俺の髪は昔みたいに黒いけど、これは少し前に染め直したから。
「薫、暑い?」
 耳元でコージの声が聞こえる。
「んー」
「温度下げようか」
 隣で身を起こしたコージはパンツ一枚で、俺も同じだった。まだ寝ぼけた頭に、ピピッという電子音が聞こえる。
 設定温度に向けてエアコンが頑張り始めると同時に、コージがゴロンと横になった。
 そのままぎゅっと抱き込まれると、当たり前だけど暑い。エアコンの努力が台無しだ。
「そもそもこんなくっ付いてるのが暑さの原因なんじゃ……」
「じゃあもう一度設定温度下げる」
「いや、だから……」
 俺の話なんか無視して、コージがエアコンのリモコンをピッピッといじる。
「温度下げるからくっ付いてても大丈夫だよ」
 大丈夫も何も、別に俺はコージと抱き合って寝たくなんか……っ、何だこの硬いの。
 また俺に抱き付いてきたコージは、硬い股間を俺の太ももにぎゅーっと密着させてきた。
「何で勃ってんだよ」
「薫のエロい夢を見てたらつい」
「さっさと抜いてこい。もちろんトイレで……って、おい」
 何勝手にグリグリ俺に押し付けてんだバカ。
「……っ、パンツ汚れても知らないからな」
「じゃあ脱ぐ」
 一旦離れてからすぐ、コージのチンコと毛の感触が俺の肌に直接当たる。逃げたくても、ガッチリ抱きぐるみにされてて離れられない。
 くっ付きすぎ。熱くて硬いのが俺の太ももに食い込んでるんですけど。
「あのさ、こんなんじゃいつまで経っても治んないだろ。早くシコれって」
「別にこのままでもいいじゃん」
「ヤダよ……、なんか湿ってきたし」
「汗かな」
「どう考えてもコージの我慢汁だろ」
「そんなに嫌なら薫がさっさと終わらせてよ」
 コージが俺の手を掴んで、無理矢理ガチガチのチンコを握らせる。
「……あー、もう! このデカチン! ズル剥け! 遅漏!」
 ヤケクソでシコシコすると、ぶっといチンコがヌルヌルになっていく。
「遅漏じゃなくて遅漏気味なだけだよ。薫の中だったら普通の速度でイけるんだけどな」
 俺の中で、コレが……。あ、ヤバい。想像するな。俺のバカ。
「薫も勃った?」
 違う違う違う。まだ勃ってない! セーフセーフ!
「……っ、ぁ」
 パンツの上からぎゅむっと触られて、もう……。
「やっぱりちょっと硬いよね」
 誰のせいだと思ってんだ。しかも調子乗ってタマごと揉み始めてるし。
「おっきくなってきた。このままだと薫のパンツ汚れるけど」
「だ、め……」
 俺は慌ててパンツをずり下ろした。
 コージは俺を向き合うように抱き直して、二人のチンコをぴったりくっ付ける。
「っ、もう、今日は中、ダメだからな」
 一応釘を刺しておく。つい何時間か前、今夜の本番はもう済んでるんだから。
「うん、明日も早いから抜くだけ」
 コージはそう言って二人分をまとめて扱き始める。裏筋同士が擦れ合って、コージの長くてゴツゴツした指が俺のチンコに絡み付く。
 でも、このままイくには少し刺激が足りない。
「……も、っと」
「もっと? 強く? 早く?」
 言わなくても分かれよ、バカ。
「……どっち、も」
 コージの手が遠慮なく力んで、扱く速度が上がる。二人の我慢汁がクチュクチュ音を立てて泡立つくらい。
 エアコンの設定温度を下げたはずなのに、密着した俺たちの下半身はモワッとした熱気を発散してる。股間周りから出る汗の匂いも広がって、何か頭がぼんやりしてきた。
 単に上下に扱いてただけのコージの手が、俺の先っぽを捏ねるような動きをし始める。
 俺そこ、敏感だから、そんな触ったら……。
「ん、ん、ぁ……イ、く」
 気持ちいいのがゾクゾク這い上がってきて、コージの手の中で俺のがビュクビュク射精する。
 でも、震える俺のチンコはまだコージの手から解放してもらえない。
「も、俺イった、から……ゃ、め」
 身体中に広がる「気持ちいい」の中心地が、いつまでもゴシゴシグニグニされてる。
 頭が変になりそう。
「っ、ごめ、も、少し……っ」
 遅漏なんだから、あとは一人でシコってろよ!
 コージの手を剥がそうとがむしゃらに抵抗したら、カウパーまみれのコージの先っちょに俺の指が当たった。
 次の瞬間、俺の手に熱い何かがぶっかけられる。うわ、ドロッドロなんだけど……。寝る前にヤったばっかなのに、何でもうこんな濃そうなのが出るんだ?
「は、あ……ごめ……」
 コージはベッド脇からティッシュを取って、二人の手と股間周りを拭いた。
 そういえば、遅漏気味とか何とか言ってるけど、コージって口でのご奉仕は要求してこないんだよな。最初にラブホでヤった時だけ?
 俺から積極的にしゃぶりにいったら喜びそうだよな。……いやいや、媚薬もない素面でそんなビッチなこと恥ずかしくて無理無理。
 考え事をしてる間に、コージが俺のパンツを元に戻した。コージの方もパンツ一丁元通り。唯一汗と精液の匂いだけが残ってる。
「明日は朝早いから早く寝よう」
「睡眠妨害してんのコージの方じゃん」
 何事もなかったかのように、コージが薄いブランケットをかけてくる。
 そういえば明日は久しぶりに実家近くの海岸へ行って、そのついでに実家にも顔を出すことになっていた。
 染め直してパサパサした髪を撫でられると、段々眠気が戻ってきた。さっき設定温度を何度下げたのか知らないけど、熱かった身体も自然に冷めていく。
 適度な涼しさと、適度な温もりに包まれて、俺の瞼はすぐに重くなっていった。


***

 大きめのバンの後部座席で、サーフパンツの水着を装着。Tシャツはポイっと脱ぎ捨てて、いざ裸足で外に――
「あち、あちちち」
 灼熱のアスファルトに足の裏が火傷しそうになる。大慌てで車に撤退すると、後部トランクの方からコージが来て、地面に俺のビーチサンダルを並べてくれた。ご苦労。
 改めて、サンダルで駐車場にスタッと降り立つ。
 駐車場や道路の横はちょっとした崖になっていて、その下に砂浜を覆う人ごみと、ギラギラ光を反射する海が広がっていた。
「おー、久々! 海ー!」
 なーんて半裸でフェンスに駆け寄ったのは俺だけで。
 同じ車から降りた二人の男は、車体後部から大きな荷物を降ろし始める。膝下丈のサーフパンツにTシャツ姿の男二人は、ぱっと見何かスポーツでもやってそうな雰囲気だ。実際、海岸の景色にもうまく溶け込めそうだしな。
 でもぶっちゃけると、こいつらはゲイビの制作会社の人間だ。片方は監督。もう片方はカメラ担当。
 今日はこの海岸にある新しい撮影設備とやらの準備をするらしい。
 コージもそんな二人と一緒に荷物をせっせと降ろし中。去年の秋になんやかんやあって、コージはこの会社で正式にバイトを続けてる。
 そんなコージに付き合って、今日は俺も手伝いに来てやったというわけだ。バイト代も出るんだってさ。
「五十嵐君、この荷物全部あっちに運ぶよ」
「あ、はい」
 宇治平さんという監督に指示されて、コージが黒い大きなバッグを肩に担ぐ。コージだって下はサーフパンツなのに、上はちゃっかりパーカーを羽織ってるせいで、まるで俺だけが浮かれて遊びにきてるみたいだ。
 砂浜への階段を一緒に下りながら、コージが俺を見た。
「薫はしばらく適当にフラフラしてて」
「いいのか?」
 首を傾げると、先に砂浜に降り立った宇治平さんがニカッと振り返った。
「柊君の出番はまだ先だから」
 出番――今日の手伝い内容を思い出して少し緊張する。
 いやいや、考えるな。
「じゃあちょっと遊んでくる」
 頭を切り替えた俺は、さり気なくその場を離れた。
 砂浜はただでさえ沈んで歩きにくいのに、そこら中にレジャーシートやマットが敷かれて進路をふさぐ。シーズンオフのガラーンとした海岸を知ってると、この混雑が馬鹿馬鹿しくなるな。
 黒くした髪が日光を吸収して熱くなってきた頃。
「カスミー」
 あれ、この女の声どっかで聞いたことあるぞ?
「ミカがあっちの店で休憩したいって」
 カスミ、ミカ……。もしかして。
 ギョッとして声のする方を見る。
「アリサもミカと行くの? なら私も――
 間違いない。同じサークルの仲良し女子三人組が、少し離れたパラソルの下に大集結だ。
 確かに海行きたいって話してたし、そん時に俺とコージが地元の海岸勧めたけどさ、日にちまで被るなよー。
 とにかく向こうはまだこっちに気付いてないみたいだ。コージと一緒に来てるなんてバレたら、じゃあ一緒に……ってなりかねない。とりあえず離れよう。
 砂浜にはしっかり背を向けて、目指すは浅瀬だ。砂浜よりあっちの方がまだ人口密度が低いしな。
 波打ち際で砂の色が変わった時、足元にビーチボールが飛んできた。
「ごめんなさーい」
 そう叫びながら、ビキニ姿の女の子が駆け寄ってくる。走るたびに推定Gカップの胸が揺れて、俺がボールを投げるより先に目の前まで来た。
「ありがとうございますー! お兄さん一人ですか?」
 ああ、これは知ってるぞ。自然に話しかけるきっかけを演出するために、わざと遠くにボールを飛ばすやつだ。これまでのイケメン人生で七回は経験した。
「いや、一人じゃない」
「えー? 何人ですか? 私友達と三人で来ててー」
 なるほど。女の子の背後を見ると、少し離れたところで二人の女の子がこっちの様子を伺っている。
 前までだったら、こんな女の子全部とりあえず食ってた。特にこういうおっぱいが大きい子は優先的に。最初から水着姿を見てれば「脱いでがっかり」なんてことにはならないから、砂浜は安全な狩場だった。
 でも、もうダメだ。多分このおっぱいは触るとやわらかくて気持ちいいんだろうけど、俺が知ってる本当の「気持ちいい」には程遠い。
 今の俺はもう女の子相手じゃ満足できない。誰かのせいで。
「ごめん、すぐ移動しないとならないから」
 そつなくイケメンなお断りを入れてから、歩いてきた方を振り返る。荷物をどこかに置いて手ぶらになったコージが、また駐車場へ戻ろうと砂浜を歩いてるのがすぐ見つかった。
 ダークブラウンの髪、無地の白パーカー、無地の紺サーフパンツ。パーツだけ見るとめっちゃ地味。
 それなのに何となく目立ってるのはなんでだろ? やっぱ背高いし、足長いし、顔も……って、何考えてんだろ俺。やめやめ。
 一人でいても逆ナンされるし、やっぱあいつのとこ戻るか。
 苦労して歩いてきた砂浜をまたせっせと戻る。もう少しでコージのそばにいけそうだと思ったその時。
 海の家の前を通りがかったコージが、テーブルについた女の子二人組に足止めを食らった。推定CカップさんとBカップちゃんだ。
「すみませーん。ビール追加お願いしまーす」
 突然絡まれたコージが慌てて首を振る。
「いや、俺店の人じゃ……」
「えーっ、ごめんなさーい。お兄さん何かのスタッフさんみたいだったから」
 スタッフと言えばスタッフだな。ゲイビ制作の。
「すみません、俺もただの海水浴客で」
 それでも女の子たちは「見えな~い」なんて絡み続ける。
「ね、お兄さん一人?」
 女の子が強引にコージの腕を掴んで聞いた。
 はいはい、それも知ってるぞ。間違えて話しかけちゃった風を装って、本当はただ最初に話しかけるきっかけが欲しいだけのやつだよな。これまでのイケメン人生で九回は経験した。
 やっぱコージも黙ってればイケメンなんだよな。俺と並ぶと霞むだけで。
 ただしコージは絶対無自覚。無自覚イケメンって質悪いと思う。
「いや、一人じゃない」
「彼女と一緒ですか~?」
 探りを入れる女の子に向かって、コージはちょっとだけ笑った。
「うん、まあ、恋人」
 何だそれ。恋人って誰? 俺? いやいや、あれはナンパを断るための嘘に決まってるだろ。
 ……あれ? でもあの超鈍感なコージがナンパに気付くか?
 俺がグルグルしてる間に、コージが女の子たちから離れた。俺はなんとなくあっちに行きづらくなって、でっかいサーフボードを持ったアニキ集団に紛れる。
 とりあえず一旦逃げよう。俺はサーフィン軍団。俺はサーフィン軍団。
「薫!」
 人ごみに紛れる作戦も虚しく、俺はあっさり呼び止められた。結構大きな声で呼ばれたせいで、周りが皆きょろきょろしてる。どうせ皆「薫」っていう女の子がどっかにいると思ってるんだろうけど。
 固まってたら、コージはすぐに俺の目の前まで来た。視線が痛い。さっきコージを逆ナンしてた女の子たちも、まだこっちを見てる。
「こ、コージ、何?」
「時間あるって言っても、さすがにそこまで遠出するなよ」
「してないじゃん。こんな近くウロウロしてんのに」
「だって、さっきサーフィン行こうとしてただろ」
 もう離れていったサーフィンのアニキたちを見て、コージが顔を顰める。
「いやいやいや、偶然同じ方向に歩いてただけ」
「その割には近かったような」
「それはー、そう! 腹筋! あの兄ちゃんたちの腹筋が綺麗に割れててさ、ついその男らしさに見とれてたわけ!」
 我ながら完璧なロジック! コージも低い声で「へえ」って言ったきり黙りこんだ。これはもう俺の勝ちだ。さっさと話題を変えよう。
「それで? 準備はどうなんだよ」
「あともう一回荷物取りに行って終わり」
 コージはそう言って上の駐車場をちらっと見た。
「じゃあもう一緒に行こーぜ」
 俺はとにかく周りの視線から早く逃げたくて、コージを引っ張るようにして駐車場へ向かった。


***

「あっちの方マジで人少なっ! 穴場ってやつ?」
 岩陰を回り込んだ先に見えたのは、小さな砂浜。
「うん、潮が引いてないとまずここ通れないし、潮が引いてても見ての通りだからさ」
 俺たちが今歩いているのは湿った砂の上で、しかも黒い海藻がこんもり溜まっている。岩壁に遮られた向こうにあんな砂浜があるなんて知らなければ、こんな汚い所を踏ん付けて進む人はそうそういないだろうな。
 泳いできた人やサーファーが波打ち際に少しと、砂浜にも人が二、三組。実に平和な景色だ。
 そんな砂浜奥の角に、鏡張りの四角い建物がドーンと鎮座している。太陽の光をピカピカ反射してメチャクチャ怪しい。
 もしかして、これがゲイビ用の新しい撮影設備ってやつか?
 嫌な予感ほど的中するんだ。思った通り、コージはスタスタとその不審な鏡へ向かった。
 裏手へ回ると、そっちは普通のプレハブ小屋っぽい外壁になっていて、ドアも付いていた。どうやら砂浜を向いた二面が鏡張りになっていて、崖に面した裏手の二面は普通の壁になってるらしい。
「なあ、何だこれ?」
「何って、マジックミラーハウス」
 そう言いながら、コージがドアを開ける。中はクーラーで冷えていて、床にはタイルカーペットが敷かれてる。超快適だ。
 それだけじゃなく、大きなガラス張りの二面からは、砂浜がバッチリ見渡せた。さっき外から鏡に見えていた面が、中からは普通のガラス窓になってるみたいだ。
「おー、すげー! 開放的!」
 入り口でサンダルを脱ぎ捨てて、窓際にダッシュする。海から上がってきたサーファーも、人目を忍んでコッソリ手を繋ぐカップルも、ぜーんぶ丸見えだ。
「マジックミラーって知ってるだろ? 明るい方から見ると鏡だけど、暗い方からは明るい方が見えるんだ。明るさが逆転すると、見える向きも逆転して――
 コージがなんか説明してるけど、俺はあんまり気にせず部屋の中を観察した。
 すぐそばには二人掛けのローソファが浜辺を向いて置いてある。のんびり景色を眺めるのにピッタリ。用意周到だな。
 窓のない方に入り口とは別のドアが三つ、あとその間にやたらと大きい鏡もある。
 まず左端のドアを開けたら……シャワールームだ。海岸でこれは便利だな。
 次にすぐ隣のドアを開けると、そこは店の試着室みたいな狭い空間だった。姿見が一枚と籠が一つ。よく分からない部屋だ。
 もう一個のドアは? 鏡を挟んで右端にあるドアをガチャっと開くと、薄暗い部屋の中で宇治平さんとカメラマンが作業してるところだった。
「お、柊君いらっしゃーい。今カメラセットしてるからもう少し待ってて」
 宇治平さんが組み立ててるカメラの前には、大きなガラス窓。その向こうに、さっきまで俺がいたメインの部屋とコージが見える。
「あ、あっちの部屋から鏡に見えてたのって」
「そう、これもマジックミラー」
 俺は元の部屋に戻ってドア横のでかい鏡を見る。多分カメラをセットしてる宇治平さんからは、今の俺が丸見えなんだろうな。
 別に何も変なことなんてしてないのに、これからやることを思うと恥ずかしくなる。
「薫、どうした? まさか、やっぱやめるとか言い出さないよな?」
 コージに声をかけられて、俺はビクッと飛び上がった。


***

 この話を聞いたのは、半月くらい前の七月の終わりのことだった。最近はもう三日に二日くらいはコージの家でギシギシアンアンしてるわけだけど、ある日寝る直前になってコージがこんな話を持ちかけてきた。
「あのさ、宇治平さんがどっか別の会社から撮影用のセットを中古で貰い受けたらしいんだけど」
 相変わらずひっ付かれてクソ暑い……なんて思いながら、俺はコージの話を黙って聞いた。
「カメラの位置とか、どんな絵が撮れるかとか、そういうのテストしたいんだって。でも本番と同じモデルさん使うとギャラが高くつくってんで、バイトの俺がテスト用のモデルやってくんないかって誘われてるんだけど、薫も一緒にどう?」
「はあ? 何で部外者の俺が? そんなのバイトの仕事だろ。俺は来週からインターンで忙しいの。院に行くとか言ってるお前とは違うの。この染め直した黒髪を見ろ! 今の俺は真面目君なんだよ。お分かり?」
「でも例の設備って実家近くの海岸らしいんだよ。八月下旬ならインターンも終わってるだろ? 帰省がてらどう?」
「やだよ」
 暑苦しくくっ付いてるコージを押し退けると、その身体は突然簡単に剥がれた。
「んー、だよな。じゃあやっぱバイトの後輩君とやるか。最近入ってきたんだけど、人懐っこい犬みたいなんだよな」
 コージが寝返りを打って離れる。二人の間にできた隙間に、冷房の冷たい風がスースー当たった。
「……それ、具体的にどんなことすんの?」
「またこっそりモニタリング系の企画だから、あちこちにカメラ仕掛けるんだけど、どこでどんな体位してもらえばカメラ映りがいいかとか、ちゃんとチンコや結合部が映るかとか……まあ本当に結合はしなくていいだろうけど、一応脱いでフリだけはするんだろうな」
 俺の頭の中に勝手な妄想が広がる。可愛い子犬系の後輩君が、コージとあんな絡みやこんな絡みを……。
「やっぱり俺行こーかな。どーせ実家帰るんなら行きの交通費浮くし」
 モゴモゴそう言ったら、汗ばんだコージがまたべったりくっ付いてきて、とにかく朝まで暑かった。


***

「薫、聞いてる?」
 コージの声が俺を回想から現実に連れ戻した。
「き、聞いてるって。ここで俺が抜けたらメーワクだろ」
 なんか変に声が上擦った。コージは「良かった」とだけ呟いて、部屋の隅にあるバッグから色々小道具を広げ始めた。
 まずはエアーマット。ラブホでローションプレイ用に置いてある奴にそっくりだな。
 お次は……ボトル。すごくローションが入ってそうな雰囲気だな。
 コージはさらにごちゃごちゃ謎のグッズを取り出して、マット脇のカゴの中に詰めていく。
 さらに白い布っぽいものを試着室の方に運んだり、怪しい冊子をマット脇に伏せたり。
 そこそこ準備が整った頃、撮影用の部屋から宇治平さんが出てきた。
「やー、おつかれ。じゃあさっそく説明しようかな」
 俺とコージはマット脇に座って、宇治平さんの話を聞く。
「今回考えてる企画はね、海に遊びに来た男の子二人組をお招きして、筋力アップマッサージという名のエロいことをしてもらう! って感じなんだ」
「は? 意味分かんね」
 俺の冷たーい呟きなんてお構いなしに、宇治平さんは楽しそうに「まあまあ」と笑った。
「それじゃあ入口から入ってきたところを想定して、ちょっとあっちに立ってみて」
 渋々サンダルを脱ぎ捨てたあたりに移動すると、宇治平さんは一旦カメラのある部屋に消えてすぐに戻ってきた。
「おっけーおっけー」
 何がおっけーなんだか分かんねーな。
「はいはい、二人ともじゃあこっちに座って」
 結局さっきと同じようにマット脇に座らされる。
「二人ともお名前と年齢は?」
「俺は薫、はい以下省略」
「うんそうだねー、この辺は省略して本題。二人とも、男の子ならやっぱり腹筋は鍛えたいよね? 水着になると丸見えになるそのお腹、貧相だと恥ずかしいよね? シックスパックに憧れるよね?」
 思わず俺も自分の腹を見る。日焼けなんてしてない白い俺のお腹は、割れ目すらなく真っ平。だって筋トレとかめんどくさいじゃん。カロリー消費はセックスで十分。
 コージは……パーカーで隠れてるけど、最近ちょっと腹筋割れてきたような? 俺とのセックスで腰振り運動してるからだな、うん。
 そこで宇治平さんは、堂々とマット脇の冊子を掲げた。
「なんと、ここに筋トレに最適なマッサージの手順があります! このマッサージをするだけであら不思議、ちょっとした運動でいつもより筋肉が付きやすくなります! 海で泳ぐ前に最適だよね」
「はい、嘘ー。そんなのに騙される人いないって」
 いくら俺がバカだからって、もうその手には乗らないんだからな。いや、そもそも通ってる大学的に俺そこまでバカじゃないし! この前だって、超イケイケなネットに強い広告代理店のインターンに行ったんだぞ!
「視聴者もね、『まさかこんなのに騙される奴いないだろー。いや、でも数撃てば一人くらい騙されるかもしれないぞ? 絶対ヤラセだって言い切れるわけじゃないよな……ゴクリ』っていう絶妙な期待感で見てるわけ。まあぶっちゃけヤラセなんだけど! AVは夢を売るのが仕事だからさ!」
 暑苦しい演説はさらっと涼しく聞き流すに限る。でも黙ってると宇治平さんのテンションはどんどん加速していく。
「確かに柊君は賢いから騙されないよね。分かってるよ、分かってる。でもね、本番では皆騙されたフリで演技してもらうんだよ。だから、柊君もここは騙されたというフリでよろしく!」
 なるほど、俺は騙されたわけじゃなく、騙されたフリをするだけ、と。
 …………それなら問題ないな。うん、問題なし!
「しょうがないなあ」
 俺がそう言うと、宇治平さんは嬉しそうに最初のページを開いた。
「では、まずはトレーニング用の衣装に着替えてもらいます」
「なんで? この水着でいいじゃん」
 俺のおしゃれなエスニック柄膝上丈サーフパンツの何が悪い!
「だめだめ、さあ、向こうの部屋のカゴに用意してあるから。五十嵐君はこの部屋で着替えよう」
 ん―……コージも着替えるなら仕方ないな。
 狭い更衣室に移動して、カゴの中にぐしゃっと入れられた白い布を摘み上げる。
 何だこれ。小さくね? いや、これ無理だろ。履けないって。
 俺が両手に持ってるのは、ブーメランタイプの白い競パンだ。ビローンと広げると意外と伸縮する。……履けるかも?
 元々のサーフパンツを脱いでから、伸ばしたビキニパンツに足を通す。
 やっぱきつくね? タマと竿入るか……? ぴっちぴちモッコリになるだろ、これ。
 何とか履いてはみたものの、明らかに後ろは半ケツだし、皮に守られた俺のマグナムがどっかハミチンしててもおかしくない。
 ていうか白ってやばい。裏地? クロッチ? ってやつもなぜかないし、濡れたら確実に透けるだろこれ。むしろ今も透けそう。
 水着っぽいけど水着として欠陥じゃん。ゲイ用のフェチアイテムとか?
 がに股で股間をチェックしていたその時、背後でドアがガチャリ。
「おぎゃっ」
 ビックリしすぎて変な鳴き声が出た。
「はいはい、ちょっとごめんね」
 宇治平さんは狭い部屋にぐいぐい入ってくると、カゴの裏を何やらごそごそいじり始める。
「な、何?」
「いや、ちょっとカメラの高さが」
「カメラ!?」
 宇治平さんの手元を見ると、黒くて小さい何かが、壁の穴から出た細いコードに繋がっていた。
「男の子がピチピチの極小競パンにチンコ詰め込む姿なんて、撮るに決まってるでしょ」
 まるで世界の常識みたいな言い方だ。そういえば今回もいろんなところに隠しカメラがあるって言ってたな。
「ところでさ、これちょっと小さすぎない? ローライズすぎてケツの割れ目見えてるし、尻肉も下はみ出してるし、前もめっちゃモッコリするんだけど」
「だって、そうじゃなきゃエロくないでしょ? はい、それじゃ思う存分チンポジ直してどうぞ」
 ……やっぱこのおっさん変だ。
 俺はバタンと閉じられたドアを睨んだ。
 あそこにカメラがあるって分かると、何か急に視線を感じる気がする。コソコソと色々はみ出してないか確認しながら、ふと気が付いた。
 そういえばコージも着替えるって言ってたけど、あいつのサイズだとこんなの無理だよな。モッコリどころじゃないだろ。
 想像して笑いを堪えながら部屋を出ると――
「あ、出てきた」
 コージもパンツ一枚だ。ただし、俺のと違う……ボクサータイプ。しかも黒。
「ずるくね!?」
「うわ、薫……やばいな、それ」
 変態コージのスイッチが入る予感。
 いや、それも怖いけど、コージの後ろに見える浜辺が開放的すぎてヤバい。外から中は見えないって分かってるけど、これは確かに恥ずかしいぞ。
 俺はサッと両手で股間を隠しながら、マット脇に座った。
「あー違う違う、こっちのマットの上に座って」
 宇治平さんに言われて、俺とコージはマットの上で向き合って座った。
「はい、じゃあマッサージ用のローションかけまーす」
 やっぱりあれローションか!
 なんて思ってる隙に、宇治平さんはボトルの中身を俺の身体に垂らしてきた。
「その股間の手どけてー」
「いや、これ透け透け変態水着じゃん! そんなの垂らしたらヤバイって!」
 向かいで見てたコージに助けを求めたのに、むしろコージは俺の両手を掴んできた。
「ば、駄目だって……っ!」
 問答無用でトロトロした液体が俺の股間を濡らしていく。色がどんどん濃くなって、詰め込まれた俺のチンコが透けた。……変態っぽい!
「はい、台本だと僕はここで退席するから。この先は二人だけで本の通りにマッサージを進めてねーって展開。そして隠しカメラの存在を知らない男の子二人は、次第にマッサージをエスカレートさせてムフフ……っていう台本なんだ。あ、位置とか角度とか、カメラから見てて問題があったら出てくるね」
 ボトルをキュッと閉めた宇治平さんは、そのまま撮影部屋に引っ込んでいった。
 コージと二人っきり……いや、そう思わせて宇治平さんもカメラマンも見てるって筋書きなんだよな。
 あっちの砂浜にいる人からは見えてないよな?
 ていうかこの一番強い視線は……。
「で、お前は何じっと見てんだよ」
 コージの奴、さっきから俺の股間をガン見してやがる。
「いや、右斜め上に納めたんだなあと」
「言うな!」
 透け透けの生地が股間に貼り付いて、チンコのポジションや向きまでくっきり丸分かりだ。最悪!
「よし、とにかく進めるか」
 俺を解放したコージはパラパラ本をめくる。
「じゃあまず、薫はそこに仰向けで寝て」
「何で?」
「そう書いてある。ほら、カメラチェックしてるから」
 コージが指差したのは、すぐ横の壁にかかったでかい鏡。この向こうにカメラがあるんだよな……。
 お仕事ってことで、仕方なくマットに仰向けになる。片手でさり気なーく股間を隠して。
「まずは、簡単な全身マッサージだってさ」
 冊子を伏せたコージが、俺の太ももの上に馬乗りになった。
「それでは、いざ……」
 コージは濡れ透け状態のビキニパンツ近くに手を置くと、ローションを引き延ばすように掌を胸の方へ動かす。下から上へ。ぬるりぬるり、行ったり来たり。
 ……あ、なんか変な気持ちになってきたかも。
「なあコージ、さっきから俺の胸ビミョーに揉んでない?」
「だって揉むようにマッサージって書いてあったし」
 さすがインチキマニュアル。男たちがエロい気持ちになるように、そうやって仕組んでるんだな。誰がそんな罠に引っ掛かるかって――
「……っ、コージ、どこ触って……」
「ここも揉むようにって書いてあった」
 いやいやいや、そこ乳首じゃん! マッサージのツボでも何でもないだろ!
 って言いたいのに――
「んっ……」
 喘ぐなよ、俺のバカ! いや、俺は悪くない。悪いのはコージのこの手だ。親指の腹でコリコリ乳首を押し潰しながら、手のひらで胸全体をぬるぬるもみもみ……。
「や、ばい……って……っ」
「ローションを身体全体に塗りこむようにマッサージ……そろそろいいかな。薫の身体テカテカ……」
 俺を見下ろすコージの視線が、俺の股間の上で明らかに止まった。やっぱバレるよな……勃ってるって。
「えーっと、次は何だったっけかな」
 あ、スルーされた。それはそれで恥ずかしいんですけど。
「薫、ちょっと膝立てて足開いて」
 コージは冊子を片手に俺の上から降りると、無理矢理俺の足を割り開こうとしてくる。それって……正常位の時のポーズじゃん?
「ちょ、次、何すんの?」
「腹筋運動。俺が足押さえてるから」
「足閉じててよくない?」
「でもこの本では開くように書いてある」
 意味分かんねー! ってどんなにツッコミたくても、俺たちはこのインチキエロマニュアルに逆らうことはできない。
 ゆっくり足を開くと、モロに勃起した股間がスースーする。コージからどういう風に見えてるのかは想像しないようにしよう。少なくともまだハミ出してはいないはず。
「手は頭の後ろで組んで、さあどうぞ」
 足首をガッチリ掴まれて、俺は仕方なく腹筋を始める。
「はい、いっちにー」
 コージの呑気な声に合わせて、上半身を……んぐぐ。結構つらい。
「薫……運動不足だと厳しいよな」
「う、うるさい!」
 俺だってやればできるんだからな。
 思いっきり反動の力で、フンッフンッてな具合に身体を起こしては倒し、起こしては倒し……。
 あれ、なんか激しく動きすぎてパンツがズレてきた。
「どうしたー?」
 そんなすっとぼけたこと言いながら、コージの視線はガッツリ俺のアソコに集中してる。
「も、もういいよな! 腹筋してるとこがカメラに映ってるか確認できればいいんだし」
「うん、問題があれば宇治平さんが出てくるはずだから、きっとM字開脚で透け透け競パンから勃起チンコはみ出してる状態がバッチリ撮れてるんだろうな」
「ああああ、言うな! ていうかはみ出てる!?」
 大慌てでマットに座って股間を見下ろす。確かにパンツのウエストのところから俺の息子が……。
「どうせ透けてるんだからしまわなくていいよ。それに次は俯せだってさ」
 このモッコリを隠せるならもう何でもいい。
「何々、背中にもローションをかけてツボ押し……」
 ブツブツ言ってるコージを無視して、俺はさっさとマットに俯せになった。股間がマットに擦り付けられて、ちょっと床オナっぽいかも。
 とか何とか考えてたら、背中から腰にドバッとローションがぶっかけられた。さらにケツの辺りにも追いローション。競パンに納まりきらなかった尻の割れ目から、ローションが水着の中に侵入してくる。割れ目に沿って穴を超えてタマの方までツツーッと……う、なんかゾクゾクする。
「えーっと、ツボ押しはコレかな」
 脇のカゴからコージが取り出したのは、蛍光ピンク色のイボイボが付いた何か。素材はゴムっぽい。
「痛かったら言って」
 肩甲骨の近くにぐりぐりーっとゴムのイボが押し付けられた。めちゃくちゃ痛いってほどじゃない、痛気持ちいいって感じ。
 肩甲骨から始まって、背骨の周り、腰を順番にほぐしながらツボ押しが下に移動していく。尾てい骨の辺りまで来て、さすがにまた上へ引き返していくかと思ったら……。
「ここから先は指かな」
 コージがそう呟いてすぐ。
「……っ」
 危うく声が出そうになった。コージの指が競パンをずり下げながら、俺のケツの割れ目に入って来たからだ。
「ど、どこまでやるんだよ」
「身体の中心線に沿って……会陰のツボまでって書いてある」
「は!? 何言……っぁ」
 コージの指がムギュ、ムギュって少しずつ進んできて、俺の窄まった肛門を通り過ぎる。
「は、ぅ……ダメだって、そこ、んん……っ」
 穴と玉の間辺りをぐりゅっと押されると、俺の身体は勝手に跳ね上がった。
 そこは性感帯! 筋トレとか何とかの最初の目的と全く関係ない!
 ツッコミたい。けど、そこ押されたらもう無理。気持ちいいのには逆らえない。男の子だから仕方ない。
「ん……んぅ……っ」
 マットと身体に挟まれて、俺のアソコはもうビンビンだった。思いっきり抜きたい。腰動かしたら床と擦れて気持ちいい、かな。
 そんな誘惑に負けそうになった時、すぐ横でドアが開いた。あ、宇治平さん、忘れかけてた。
「うーん、やっぱり受けのチンコは見えた方がいい気がする」
 何やら今の絵面にご不満らしい。
「背中のマッサージ終わって会陰に行く時は、受けの子に四つん這いになってもらった方がいいね」
 宇治平さんの言葉に合わせて、コージが俺の腰を持ち上げる。嘘嘘嘘、ま、待って。
「うん、おっけー。後で冊子を書き換えておかないと」
 そう言った宇治平さんの横には、四つん這いの俺を映した鏡。競パンの後ろはずり下がってケツが丸見え、前側はかろうじて残った透け生地からチンコがはみ出してる。
 我ながら酷い。この鏡の向こうにカメラがあると思うともっと酷い。
 宇治平さんがいなくなると、コージはまたしつこく会陰を押してくる。
「薫、前辛そうだね」
「ぅ……分かってるなら、そんな、押す……な」
「だって書いてある通りにしないと。勃った状態でどうチンコが映るかが大事なんだし」
 うあああ意識させるようなこと言うな!
「最初からローションで濡れててよかったな」
 コージが何を言いたいかは分かる。もう俺のアソコからは先走りがダラダラだ。もしローションが無かったら、これが競パンにモロな染みを作ってたはず。
「宇治平さん何も言ってこないし、オッケーってことで先進むか」
 まだ先があんのか……。ゲンナリしてる俺を無視して、コージはカゴからまた変な形の器具を取り出した。ディルド……じゃないよな。少し小さい。
「次は前立腺マッサージ。これエネマグラって言うんだけど知ってる? ここ持って、この太いところ入れて、この出っ張りで会陰を押す」
「なあなあなあ、これ何のためのマッサージだっけ? 筋トレがどうとか関係なくなってない?」
「さあ? 本番のモデルさんは何も気にせずやるから、薫も納得したフリでがんばれ」
 コージは何もためらわず、持ってた物体を俺のケツにあてがった。
「昨日もヤッたし、そこそこほぐれてるよな」
 おい、宇治平さんたち聞いてんのにそういうこと言うな。
「っ……は」
「痛くないだろ?」
 そんな太い器具じゃないし、コージのに比べたらぶっちゃけ余裕……あれ、俺の穴ヤバいかも。
「っひゃ……ちょ、んぁ」
 マジで中のアソコ押してきやがった。さっき押されてた会陰も外からゴリゴリされて……声、抑えらんない、無理。
「んっ、ん……コ、ジ、まずい……って」
「なんで?」
「だ、これテスト、だろ? ガチでイ、きそ……」
「射精シーンってめちゃくちゃ大事だからさ、むしろイってくれないと困る」
 宇治平さんの忠実な部下め!
「ほらほら、薫いつも前立腺好きだろ? 媚薬なくてもトコロテンしたりドライでイったりできるようになったもんな」
 だからそういうこと暴露するなって。俺が開発済みの淫乱みたいじゃんか! まあそうなんだけど!
 うぁ、ヤバい、チンコの裏からグリグリ押されてる。さすが前立腺を押すために生まれた形。めっちゃ的確に気持ち良く押してくる。
 無理、溜まってるの出る。ていうか、出したい。
「ぁ、あ、あ……っ、イく、イっちゃ……っ」
 気持ちいいのがびゅるびゅる駆け上ってきて、一瞬意識が飛ぶ。次に聞こえたのは、マットの上に俺の出したのがボタボタ落ちる音だった。
「は……ふっ」
 コージがエネマグラをにゅるんっと抜くと、またゾクゾク変な感じになる。力が抜けて、思わず汚れたマットの上に倒れ込んだ。
「何も言ってこないから問題なし、かな」
 撮影室のドアが開かないのを確認して、コージは冊子の続きを読んだ。
「あ、今度は交代して俺の方が仰向けに寝るんだって」
 うー、俺はもうこのまま倒れていたい……。
「ほら起きて。うわ、ベタベタ」
 コージは俺を無理矢理座らせると、俺の腹や競パンに付いた白いドロドロを見て笑った。
「俺寝るから、次は薫が俺の上に跨って」
 俺を押し退けて、コージが仰向けになる。俺はスケスケのドロドロのグチョグチョなのに、こいつだけは黒のボクサーパンツでほとんど汚れてない。なんかムカつく。
 とりあえずずり下がった競パンを元に戻して、息子も一応しまい直す。マット脇のローションボトルを持ち上げてみたものの、中身はすっからかんだ。
 あ、あっちのでかいバッグの中、まだ色々入ってんじゃん。
 コージの運んでたバッグを漁ったら、予備のローションが簡単に見つかった。
「薫、何して――
「うるさい。コージももっと汚れろ」
 コージの上にだばだばローションを垂らす。特に股間を重点的に。
「ちょ、それ本番用の――
「うーるーさーいー」
 俺はローションまみれになったコージの腹の上に馬乗りになってやった。
「で? 次は何すんの? 俺がコージをマッサージ?」
「……俺は悪くないからな」
「? 何か言った?」
「何も。えーっと、次は太ももで俺の腰をしっかり挟んだまま前後運動」
 それって騎乗位素股じゃん。
 後ろ手にコージの股間に触ると……お、ちょっと勃ってる。
 ふーん、今度は俺が仕返ししてもいいんだ。じゃあ、コージもビンビンのグチョグチョにしてやる。
 そう考えたらなんか身体が熱くなってきた。特にコージと密着した股間の辺りがジンジンする。
 膝立ちで位置を調整して、コージのチンコの真上に座る。元から濡れてた俺の競パンに、新しくローションを足したコージのボクサーがぴったり密着した。
「へへ……じゃあ動くからなー」
 ちょっと固いコージの竿を、尻の割れ目で扱く。さっき押されてた会陰のツボやタマまで刺激されて、俺の方もかなり気持ちいい。
「ん……きもち、ぃ? ここ、めっちゃ固くなってきた」
 固いのもあるけど、コージのはやっぱりデカい。
「薫もまた勃ってきてるけど」
 だって気持ちいいんだからしょーがないじゃん!
 下を見たら、前後に擦るたびにズレる競パンから、俺のピンクの亀頭が丸見えだった。
「今一瞬、薫のお尻引き締まったけど」
 だって男の子は視覚からくるエロ情報に弱いんだからしょーがないじゃん!!
 ムカついたからコージのもはみ出させてやる。俺並みの超ローライズにしてやるからな。
 ボクサーのゴムを下にずり下げると、コージのマグナムがブルブル揺れながら飛び出してきた。
「あ、また薫のお尻がビクってした」
 だってもう条件反射でコレ入れた時のこと想像しちゃうんだからしょーがないじゃん!!!
 もう俺のケツの実況なんかできないくらいメロメロにしてやるから覚悟しろよ。
 コージの先っぽを重点的に俺のケツでぬるぬるごしごし……してたら競パンが割れ目に食い込んできたような……? そんでもってローションがさらに俺の穴に塗り込められていくような……?
 んー、身体がやたら熱い、かも。
「んっ……は、ぁ……」
「マッサージされてるの俺の方なのに、薫の方が気持ちよさそうにしてどうすんの」
 マッサージ? これってそもそも何してたんだっけ? なんかうまく頭が回らなくなっきた……。
 ぼんやりしたまま身体を前後に揺らしてたら――
「ひぁ……っ、コー、ジ?」
 コージの手が俺の競パンの後ろ側をぎゅっと束ねたせいで、Tバックみたいに食い込んでくる。
「股に何か挟むのが気持ちいいみたいだから」
 そう言いながらコージが掴んでた布を強引に横にずらす。
「ぁ、あ……それ、だめ……っ」
 俺の股間とコージのチンコが直接擦れ合ってる。コージのが俺の穴の周りを掠めるたびに、入り口がヒクヒクした。
 欲しい……ちょーだいって言っちゃおっかな……。
 夢見心地だった俺は、ガチャッと開いたドアの音で我に返った。
「わ、な、何ですか?」
 突然現れた宇治平さんに、コージもちょっと慌てて俺の競パンを引っ張る手を離した。
 お仕事だったのすっかり忘れてた。危ない、危ない。
「あのね、そこからこう……にゅるっと穴に棒が入っちゃったーって感じで、本番セックスになるって台本だからよろしく」
「あ、ガチで挿入する必要あります? フリだけ?」
「まあ挿入してもらった方がベターだけど、素股止まりでも結合部見えるか見えないかくらいは確認できるからどっちでもいいよ」
「し、しな……ぃ!」
 俺は全力で首を振った。このビンビンのチンコじゃ説得力ないかもしんないけど。
 案の定宇治平さんは苦笑いだ。ちくしょう。
「ただ射精は見たいから、フリでも本番でも出すまではほしいかな。流れとしては、このマットの上で騎乗位のまま一回、その後はやっぱりマジックミラーを活かしたいから、窓際で立ちバックとか背面座位とか。なるべく受けの子が外を見て恥ずかしがるような体位が希望」
 反射的に窓際を見る。浜辺の人はさっきより少し増えたかもしれない。
「あはは、大丈夫。こんなとこまで見に来る人そうそういないよ。実際の撮影では、エキストラにすぐ外をウロウロしてもらうつもりだけどね」
 俺の不安を読み取った宇治平さんは、それだけ言い残して奥の部屋へ引っ込んでいった。
「本番……しないからな」
「薫がそう言うなら」
 むー……なんだよ、余裕ぶりやがって。見てろよ、先にイかせてやるからな。おれが勝ったらアイス奢らせる!
 コージのボクサーをさらにずり下げて、タマまで全部ボロンと出してやる。もうガッチガチじゃん。
 今度はしっかり自分で競パンを横にずらしてから、生尻でコージのチンコ全体を挟む。そんで思いっきり前後に腰を動かすと、ローションがぬっちゃぬっちゃ音を立てた。
 やっぱこの硬いの、気持ちいい……。裏スジとかすっごいビクビクしてる。
 宇治平さんの登場で一度は目が覚めたはずなのに、俺の頭はまたぼんやりしてきた。
『にゅるっと穴に棒が入っちゃったーって感じで、本番セックスになるって台本だから』
 宇治平さんのことを思い出したら、あのおっさんの声が頭に響いた。
 コージの先っちょは、さっきから俺のアソコをぬるん、ぬるんって擦ってる。もしこれが俺の中に入っちゃったら?
 想像したら中がウズウズする。中、一杯かき回したい。ムズムズするとこ全部押したい。
 そんなことで頭が一杯になる。俺、どうしたんだろ……。
「コー、ジ、あのさ、なんか、変……」
 自分でもびっくりするくらい、声が途切れ途切れで吐息が漏れた。
「だろうね。だってさっき薫がぶっかけたローション、本番用の媚薬入りだから」
 何しれっと言ってんの??
「そ、そ、それって」
「うん、去年の秋にラブホで使ったのと同じやつ」
「は、ぅ……はめられた」
 今更気付いてももう遅い。
「それに関しては薫の自業自得だろ」
 それに関しては? じゃあ、それ以外に関しては……?
 俺が考えるのを妨害するみたいに、コージが下からグリグリ硬いブツを押し付けてくる。
 入っちゃう……ていうかもう入っちゃえ……。
「……ぅ、ん……な、あのさ……やっぱ……」
「何?」
 意地悪! すっとぼけんな!
「わ、分かれ、よ……中、ムズムズ、して……も、無理……っ」
 もう何の意味もないベタベタの白競パンをグイッと横にずらしてから、ヒクヒクする窄まった穴をコージの先っぽに擦り付ける。
「ぃ、入れ、て……コレ、ちょーだい」
「嫌がってたよな? いいの? マジで?」
 あ、すっごい乗り気。イケメン台無しの大興奮。コージもやっぱ入れたかったんじゃん。
 頷くと、コージのチンコが俺の穴をコンコンつついた。
「じゃあ台本通りやるから」
 さっきまで何度も期待した通り、コージの硬いのがにゅるっと俺の入り口を貫通した。
「ぁ、はぃっ……て、く……」
 さっきのエネマグラってやつとは全然違う。おっきくて、太くて、あったかい。少しずつ奥に入ってくるたびに、俺の内側はコージのチンコにぎゅーって吸い付いていく。
「自分で動く?」
 無理。気持ちよすぎて身体に力が入んない。
 ぷるぷる首を振ったら、コージが俺の腰をがっつり掴んできた。
 あ……来る。期待で思わず中がキュってなる。
「ふぁ、あ……ぁ、ん……っ」
 がっつんがっつん下からコージに突き上げられて、俺は我慢もせずに声をあげた。
「…っ、ん、いい……もっと」
 ぶっといのが出入りするたびにゴリゴリ前立腺を擦られる。
 チンコの周りキツいし、もうこれ全部出しちゃお。
 タマと竿に纏わり付いてた水着をぎゅっと下げて、締め付けられてたモノを全部解放する。そのままぬるぬるのチンコを握り締めて、コージのピストンに合わせてゴシゴシ扱いた。
「薫、気持ちいい?」
 分かってるくせに。
 コージは俺の好きな前立腺を抉るように押しながら、その勢いでもっと奥まで一気に突く。ぐりゅっ、ぐりゅっ、ってそれを繰り返されて、俺の竿が強張った。
「ん、ぁ、あ……きちゃう、だめ、イく……っ」
 ぎゅーっと握ったチンコから、ドクドク精液が溢れる。痙攣する俺の中を何回かズボズボ突いた後、コージのも俺の中でビクビク震えた。
 あー……、めっちゃ気持ちいい。
 俺の中からコージのが流れてく感触……好き。出てかないでって思わず締め付けるくらい。
 あ、中に入ったままのコージがまたピクって反応した。
「薫、場所変えないと」
 場所、変える……? なんで? どこに?
 奥まで媚薬ローションが届いたせいか? 俺の思考はほとんどぶっ飛んで、この後のことも何も考えられなかった。

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