猫と花 15 | fDtD    
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15

 二人でリビングに戻ると、千草は少し目を丸くした。嬉しそうに貴仁の腰回りにまとわりついているネロを見て、彼はすぐに何があったのか察してくれたようだ。
 ネロはイチゴのムースを満足気に平らげると、荷物を纏めると言って二階へ行き、マロネもそれについていった。
 千草と二人取り残されてソファに座っても、何を言えばいいか分からず気まずい空気が流れる。しかしそう感じていたのはどうやら貴仁だけのようで、千草は何食わぬ顔でにこりと笑った。
「それで、貴仁とネロの関係は?」
「いっ、や、あの、え……?」
「どうしたの?」
 鈍感な宇宙人が首を傾げる。貴仁は諦めて髪をくしゃくしゃと掻いた。
「まあ、その、お前とマロネみたいなもん……かな?」
 急に自信がなくなったが、お互いに好きだと認め合ったのだから、おそらく恋人同士だと言っていいはずだ。
「へえ、貴仁はネロとそういう関係にならないって言ってたのにな。ネロの前では普通に喋れるから恋愛対象として意識してないんだろ?」
「それっ、それは……あいつなら俺のこと嫌いにならないって思えるから、その……」
「そっか」
 千草はあっさり納得してくれたが、逆に貴仁の方が拍子抜けだった。
「いいのか? 俺があいつと、その、そういう関係になっても……」
「うん。ていうか、最初から二人とも相性ぴったりだと思ってたし」
 どのあたりでそう思ったのか、千草の考えることはやはり謎だ。
「お前の父親とか、坂井さんとか、本当にいいのかな」
「あ、『息子さんを僕に下さい』ってやつ? やらなくていいんじゃないかな」
「そんなんじゃないけど、でもずっと俺があいつを預かるなら、いつかは言わないと駄目だよな」
 声だけしか聞いたことのない千草の父親——彼のしたことを考えれば考えるほど、どんな人なのか想像がつかない。彼に会うその「いつか」を思うと少し気が重くなった。だからと言って、ネロを諦めるという選択肢はない。
「父さんに次いつ帰ってくるか聞いとこうか?」
「え!? い、いいよ、まだ……」
 まるで「ちょっとお茶でもどう?」という軽いノリで言われても困る。オロオロしていると、二人分の足音がパタパタとリビングに駆け込んできた。
「千草がタカヒトのこといじめてる!」
「千草がそんなことするわけないじゃん」
 のんびりしたマロネを置いて、ネロが慌てて駆け寄る。
「いじめてないって。貴仁が父さんに会いたいんだって」
 そんなこと言ってないと反論しようとした時、ネロが貴仁を庇うように千草に立ちはだかった。
「パパに会うのは絶対ダメ!」
「どうして?」
「この前、パパがタカヒトの手当てしてた時千草も見たでしょ? あの目はね、新しい実験動物を見る時の目だよ! タカヒトが改造されちゃう!」
 青ざめる貴仁などお構いなしに、ネロと千草は睨み合っている。
「大丈夫だよ。大体、貴仁にどんな改造をするって言うの」
「女の子と上手にお喋りできるようになる改造……とか! タカヒト、早く帰ろ!」
 ネロに手を引っ張られて玄関まで行くと、千草とマロネも見送りに来てくれた。靴を履くネロをじっと見つめながら、マロネはちょっと寂しそうな顔をしている。
「ネロ……あのね……」
 マロネは何か言いかけた後、ふるふると首を振った。
「坂井さんの宿題、ちゃんとやらないとダメなんだよ?」
 澄まし顔でそう言ったマロネに、ネロは「やるもん!」とむくれた。苦笑しながらふとマロネと目が合う。大きな瞳が貴仁に期待するように真っ直ぐこちらを見ていた。そこには寂しさだけでなく、どこか晴れ晴れとした輝きがある。大丈夫、大事にするから——目だけでマロネにそう伝えてから、ネロと一緒に大きな家の門へと向かった。


***

「ただいまー。久しぶりだねっ」
 ネロは上機嫌で誰にともなくそう言ってから、狭い玄関を上がって奥の部屋へ入る。
「二週間ちょい……三週間は経ってないか」
 貴仁が後から追うと、ネロはベランダの窓に額をくっ付けてアサガオを見ていた。
「すごい、もうすぐ咲きそうだね」
 夕暮れの中、細いアサガオの蕾が揺れる。ネロと一緒にそれを眺めながら、彼の耳や髪をふわふわと撫でた。

 食材を買って料理をする時間がなかったので、今日の夕飯はあの日と同じファーストフードのハンバーガー。実はあの後一度も食べていなかったのだが、店に入ってみると、ネロのお気に入りだったいちごパイは販売期間が終了していた。ネロと出会ってから一つの季節が移り変わった——貴仁が感じたのはそんな感慨だ。だがネロの方はそんな情緒もない様子で、カウンターのお姉さんに「いちごパイはありませんか?」と聞いて困らせていた。
「うまいか?」
 ハンバーガーを満足気に頬張るネロの顔を見れば答えは分かっているのだが、それでも聞きたかった。
「うん、おいしい!」
 今日もまだあの大きな家にいれば、手作りのきちんとした料理を広いダイニングで食べることができたのに、こんな些細な安物にもおいしいと言ってくれるこの子が愛おしかった。

 食事が終わった後、ネロは読みかけだった本をチェックして栞がずらされていないか確認していた。
「お前ってやっぱり本好きなんだな」
 ソファの上でだらけながら呟くと、ネロは持っていた生物の専門書を指で一撫でした。
「だって、一人で部屋にいても楽しめるもん」
 ネロの中の引っ込み思案で暗い面が少しだけ顔を出す。
「それにね、たくさん本を読んだら……オレも何か役に立てるかな?」
「何に?」
「それはまだ分かんないけど、千草のためじゃない何か、オレの新しい目的……見つけられないかなって」
「……そうだな」
 ネロはもう自分の足で立って真っ直ぐ前を向こうとしている。それが本当に嬉しかったのだが、あまり期待をかけて気負わせないように、本を積むネロをそっと見守った。

 ネロがシャワーを浴びる音を聞きながら腹筋運動をするのも久しぶりだ。当たり前だと思っていたこの時間が帰ってきたことを噛み締めていると、シャツ一枚のネロがほこほこと風呂場から出てきた。
「次タカヒトどーぞ」
 いつも通りの風呂の順番だったが、立ち上がった瞬間にその日常が覆る。
「お風呂出たら、しよーね?」
「え?」
「せっくす」
「え?」
 理解するのを拒否していると、目の前に立ったネロの眦が少し上がる。
「オレが帰ってきたらするって約束したもん」
「した、けど……あれ? したっけ? してないような……」
「いいから早く洗ってきて! よく洗ってね! 身を清めるの!」
 ネロに背中を押されてバスルームに閉じ込められてから、突然の展開に頭を抑えた。
 確かにネロとはもう両想いだ。今日の昼キスした時も、ネロにそういう感情を抱いた。ならばその先もできるはずだ。本当にあんな子供とやってもいいのだろうかという躊躇いは、合意なのだから問題ないという別の声がすぐに打ち消す。大体、十四歳ならマセた子供はもうそういうことをしているだろう。
 大丈夫、大丈夫と言い聞かせながら、とりあえずネロに言われた通り身体を入念にゴシゴシと洗った。
 かなり決意を固めたつもりだったのだが、部屋に戻るなりベッドの上に正座したネロを目にしてまた頭を抱えたくなる。
「遅いよー。足がしびれちゃった」
「そんなかしこまって待たなくてもいいだろ」
 ベッドには近付きづらくて、なるべくゆっくりとキッチンで水を飲んだ。
「ダメだよ。今日はね特別で、えーっと、ショヤ? なんだってさ」
「そういう知識どこで仕入れてんだ?」
「マロネ」
 もしかしたらマロネは分かっててネロに色々吹き込んでいるのかもしれない。かわいい顔のあの子の印象がどんどん変わっていく。
「他にも色々教わってきたからね」
 何を教わったのか聞くのが怖い。ベッドに向かうと正座を崩したネロが何かのボトルを見ていた。
「それは?」
「マロネにもらったの。どうやっておしりに入れるのか聞いたらね、これ使うんだって」
 そう言われてみれば、ネロの手にあるものはもうどう見てもローションだった。
「タカヒト、使い方分かる?」
「あー、うん……多分」
 どうやってベッドに上がろうかと考えていると、ネロの耳がぺたんと垂れた。
「あんまり乗り気じゃない?」
「え?」
「こういうことはあんまり積極的じゃない方がいいのかな? こういうの、びっち? って言うんだっけ?」
 ネロはまるで花が枯れるかのようにしょんぼりと考え込んでしまった。
「本物のビッチってのはな、どんな男にもこういうことするんだよ」
「オレ、タカヒト以外にはしないよ」
「知ってる。だからお前はビッチじゃないよ」
 ベッドにぎしりと膝を乗せて、まだ垂れたままのネロの耳を撫でつけた。
「じゃあなんなんだろ? びっちじゃなくて……えっち?」
「もういいから黙れって」
 撫でていた頭を引き寄せて、そのまま深くキスをした。あんなに誘っていたくせに、いざとなるとネロの身体はふるふると震えている。自分と同じ、本当はネロも緊張しているのだ。この子が勇気を出して誘惑しているのなら、それに乗ってやらない手はない。
 ゆっくりと唇を離すと、頬を桜色に染めたネロがもじもじと目を伏せた。ビッチどころか純情な乙女のような反応に、貴仁の胸の奥が疼く。勢い余ってベッドに押し倒すと、ネロの手が控えめに貴仁の肩を押し返した。
「ま、待って」
 性急すぎたかと思って身を引こうとすると、ネロの手が貴仁のシャツを掴んだ。
「マロネに教えてもらったやつ、一個言い忘れてた。あのね、は、はじめてだから、やさしくしてね……?」
 何て台詞を教えたんだ——聞いている貴仁の方が恥ずかしくなって、顔を隠すようにネロの肩に顔を埋めた。
「タカヒト? 今の違った?」
「違わない、けど……俺も初めてだから優しくできるか分からない。もし優しくできなかったら……嫌いになる?」
 そう言うと後頭部にネロの手が優しく添えられた。
「嫌いになんかならないよ。これ言うとタカヒトが興奮してくれるよってマロネが言ってたから、ちょっと言ってみただけ。興奮……した?」
 マロネの策にまんまと嵌められたようで悔しい。しかし貴仁の身体は正直で嘘はつけない。
「……した」
 少し勃ってしまった下半身を押し付けてやると、ネロはひくんと身体をしならせた。
「オレまだ触ってないよ? すごいね」
「童貞舐めるなよ」
 ネロの肩から顔を上げると、大きな黒目と視線がぶつかる。羞恥と期待の入り混じった視線から逃れ、貴仁はネロのシャツのボタンに手をかけた。
「タカヒト焦らすの上手だね。すっごくドキドキする!」
 本当は緊張でうまくボタンが外せずに時間がかかっているだけなのだが、ネロは勝手にご機嫌だった。ネロはいつもの夜と同じく下半身には何も着ていないため、シャツの前を開けばネロはほぼ生まれたままの姿になる。ここまでなら今まで何度も見たことがあるはずなのに、今日は自然と特別な気がした。
 慎重にそっと脇腹に手を添えると、ネロは擽ったそうにぱちっと目を閉じる。細い身体に大きな手を這わせながら胸の辺りを触った時、ネロの耳がぴくぴくと動いた。
「本当だ、ドキドキしてる」
 胸の上でネロの鼓動を感じてから、桃色の突起部分に指をかける。今までは下半身の抜き合いばかりで、こちらはあまり触ったことがなかった。
「ぁう……オレ、女の子じゃないのに、おっぱい、きもちいい……?」
「男でもここは性感帯、らしい」
 くにくにと指で摘まんだり捏ねたりすると、ネロは両足を擦り合わせて身悶えた。ぷっくりと膨らんだそこを舌で押し潰すように舐めてやると、ネロは上半身を逸らせてビクンと痙攣する。反応が見えるのが嬉しくて、今度はそこをちゅっと吸い上げた。
「ゃ、タカヒト、そこ、そんなの……」
「もっと弱くする?」
「違うの、き、気持ちよくて、むずむずするから、下も、おちんちんも……っ触って」
 ネロがもどかしげに太ももを捩らせていることには気付いている。片手で彼の中心に手を伸ばすと、そこは小さいながらも必死に上を向いていた。
「俺まだこっちは触ってなかったのに」
 さっきの仕返しをすると、ネロは目を閉じてぷいっと顔を逸らした。いつものように手の中のものをくちくちと扱いてやると、幼いそこはすぐに限界を迎えそうになる。
「だ、だめ、今日は、ちゃんと最後までするんだよ……?」
 一回出したら終わりだと思っているのか、ネロが潤んだ目でそう訴えた。
「うん、最後までするけど……最後までこのまんまだとキツいだろ?」
 握る力を加えて素早く追い立てる。ネロのはぁはぁという浅い息遣いだけで、彼の限界が近いことが分かった。
「ひゃぅ……ぃ、いっちゃう……っ」
 その瞬間、先端からぴゅくぴゅくと白いものが飛び散った。貴仁の手やネロの下腹部についたそれは真っ白で濃い。
「俺といない間、抜いてなかったのか?」
 ネロはまだ荒い息を整えてから、わなわなと口を開いた。
「だって、タカヒトと一緒じゃないと……気持ちよくないもん」
 殊勝なことを言われ、貴仁の下半身がまた少しきつくなった。ネロの両足を広げさせてから、汚れた手を彼の後孔に擦り付ける。さらにベッド脇に放り出してあったボトルを引き寄せて、手の平にローションをたらりと零した。
「少し冷たいかも」
 予想通り、ローションの付いた手で割れ目に触れると、足の間から見える尻尾がぴくんとかぎ型に曲がった。人肌で温まってきた辺りで、ローションまみれの指を一本中へと入れる。傷付きやすい入り口の辺りを重点的に解してから、ゆっくりと指を深くしていくと、以前挑戦した時よりもかなりすんなりと入った。
「痛くないか?」
「まだ、だいじょぶ。ぬるぬる、すごいね」
 ネロが見ている前でさらにローションを追加してから指を二本に増やす。ネロが顔を顰めるたびに一旦止まりながら、じわじわほぐすように指を動かした。
「まだ? タカヒトのってもっとおっきいの?」
「あ、当たり前だろ……」
 この後指の代わりに自身のものをここに入れるのだと思い出すと、ハーフパンツのテントが少し大きくなった。何とか無心を装って、ローションと共に指を三本、四本と追加する。
 しばらく中で慣らして指を動かせるくらいになる頃には、固い蕾だったそこはすっかり柔らかくなっていた。
「タカヒト、もうだいじょーぶだよ……」
「んー、大丈夫そう、かな……?」
 ネロの中から指を抜くと、そこから垂れたローションがすぐ下にある尻尾まで濡らしていた。ひくつくそこを見てまた身体の中心が熱くなる。
 手早くシャツを脱いでから、下半身のハーフパンツを下着ごと一気にずり下ろした。分かってはいたが、今まで見たり聞いたりしたことだけで、そこはもうほとんど臨戦態勢だ。そこにもローションを垂らしてゴシゴシと扱けば完全に固くなる。
 ふと気が付けば、ローションで濡れる貴仁の屹立をネロがこっそり見ていた。目が合うと、ネロは大慌てで傍にあった枕を顔に押し付けてしまう。耳だけはぴくぴくと動いていて、こちらの動きを音で観察しているようだ。
 恥ずかしさで顔を隠したいのは貴仁も同じだったが、入れる方がそうなってしまっては事が進まない。太ももの裏を掴んで大きく足を開かせると、ネロは枕からちらりと貴仁を見た。
「力抜けよ」
 以前挑戦した時はネロが力みすぎて先端すら入らなかった。今度こそ、と貴仁は熱い猛りをネロの秘部にあてがう。ローションのたっぷりついた先端で入り口をぬめぬめと擦ってから、ゆっくりとその中に押し入った。その瞬間、枕を抱いていたネロの手に力がこもる。
 痛くしたら嫌われるかな——ふとそんな考えが過ぎるが、貴仁の表情だけでそれを見越したかのように、ネロがふるふると首を振った。
「だいじょうぶ、ちょっとピリッてしただけ」
 健気にそう言うネロの前髪をさらりと払い除けて、耳元を擽るように撫でてやる。ゴロゴロと気持ちよさそうに力が抜けたところで、中途半端だった挿入を少し深くした。
「はぁ……入ってる?」
「まだ、ちょっとだけ」
「これでまだちょっとなんだ……。タカヒトのが全部入ったらどーなるんだろ……?」
 そんなことを言われると、自身のものが根元まですっぽり入った時の感触を想像してしまう。
「あれ、なんか今ちょっとピクッてなったよ」
「実況しなくていいから、ちょっと黙ってろ」
「話してた方が力が抜けていいのに……」
 黙らせようと思って唇を手早くキスで塞ぐ。ネロがびっくりした隙を突いて、また少し奥へと入り込んだ。しかし貴仁もキスをしながら挿入を進められるほど器用でもない。唇を離してから結合部の様子を見ていると、またネロのお喋りが再開する。
「タカヒト、今のチュー強引で、ちょっとドキドキしちゃった」
 ネロの声は少し苦し気でゆっくりだ。
「そんなに喋ってて平気なのかよ」
「ん……最初入り口んとこ通るのが一番痛かったけど、入り口広がっちゃったらもうあんまり痛いの変わんない気がする。でも、なんかいっぱい入ってきてるって感じが、すごくて……」
「まだ半分くらいだけど、この辺にしとくか?」
 それに対しては力強く首を振られた。
「やだ、全部、するの……っ」
 一生懸命そう言われてしまうとどうしようもない。それに、貴仁のものも奥まで全部入りたいと疼いていた。
「ゆっくりするからな」
 ネロがこくんと頷いたのを確認して腰を押し進める。ネロの性器を愛撫したり、耳や尻尾を触ったりしながら、急激な変化を与えないように、ゆっくりゆっくりと挿入を深めていった。
「ネロ、あと少し……」
「っあ……」
 最後の最後になって、ネロが耳をしばたたかせた。
「どうした?」
「名前……タカヒト、あんまりオレの名前、呼んでくれないから……うれしい」
 言われてみれば確かに、「お前」「おい」で済ませていたことが多かったような気がする。
「ネロ」
 名前を呼んでやるだけで耳がアンテナのようにぴくぴく反応した。
「はっ……全部入った」
 長い時間をかけてようやく奥まで辿り着く。そこの感触を確かめながら、ぎゅっとネロの身体ごと抱き締めた。
「ん……すごい、オレの中、タカヒトでいっぱい……」
 ネロが下腹部を撫でてはにかんだ。煽られてはいけないと思うのに、ネロの中のものがさらに固くなったような気がした。
「また中ちょっと動いた……?」
「お前のせい」
「オレ、なんか悪いこと、した?」
 不安そうになったネロが枕に顔を埋めそうになるのを慌てて引き留めた。
「そうじゃ、なくて……お前が、か、か……」
 こんな時に限ってどもってしまう。しかしきょとんとしたネロの顔を見て、雑念を振り払い思い切って口を開いた。
「かわいい、から……」
 言ってしまった。本当はずっと思っていたけれど素直に言えなかったことを。
 桜色だったネロの頬は今やイチゴのように真っ赤になっている。おそらく自分の顔も相当赤いんだろうなと貴仁は想像した。
「かわいいって言ってもらったの、はじめて。いつもマロネは言ってもらってたけど、オレも、かわいい……?」
 ネロのこうやってたまに見える謙虚なところがいじらしかった。もうこれ以上入らないのに、二人の接合部をさらに深くくっ付ける。
「うん、かわいい。かわいいから……ごめん、動いていい?」
 ネロが恥ずかしそうに小さく頷く。今ならどんな所作も愛しくて、それが全て彼と繋がっている場所に血液として流れ込んでいった。
 さらに硬度を増した昂ぶりを少しだけ抜いてから奥へと戻す。あまり大きく往復すると苦しいだろうから、なるべく奥の方だけで小さく抽挿し、徐々に速度を上げた。がむしゃらに大きくピストン運動はできないが、小刻みにじわじわ与えられる快感だけでも十分だ。
「は、ぁ、タカヒト、それ、きもちい?」
「ん……やばい」
 油断するとイってしまいそうだったが、ネロを気持ちよくさせる前に勝手に一人で達するのはさすがにプライドが許さなかった。半勃ち状態のネロの性器に手を伸ばし、そこをそっと揉むように扱く。
「っ……?」
「一緒に気持ちよくしてやるから」
 そう言って手の中のものを擦り上げながら、挿入する位置を微妙にずらした。貴仁の手によってネロのものはまた徐々に勃ち上がる。快感を示すようにネロの尻尾が揺れて貴仁の太ももを擽った。
 もう少しだけ抽挿を大きくしようかと動きを変えたその時、ネロの身体が違う反応を示す。
「ひゃ……ぁ、なに? そこ……」
 もう一度同じ場所を擦ると、ネロはびくんびくんと身体を震わせた。そのままそこを何度も集中的に刺激しながら、前を扱く手も早めていく。
「っや、らめ、そこと、おちんちん、いっしょにぐりぐりしたら……っ」
「気持ちいい?」
「ちが、おかしくなっちゃ……」
 前後からの強すぎる快感に戸惑っているらしく、ネロはいやいやと首を振った。
「ネロ……」
 名前を呼べば、ネロの耳もまた悦びを示した。震えるそこを撫でてやると、耳まで性感帯になったかのように華奢な身体が震える。
「ん、んっ、タカヒト……っ、きもちい、オレ、また、イっちゃ……」
 ネロの前立腺を擦ると同時に、貴仁の欲望もぬめる狭い壁にぎゅっと締め付けられる。
「っは……ネロ、ネロ」
 名前を呼ぶ声に交じって、二人の結合部からはローションがくちゅくちゅと卑猥な音を立てていた。今は背中を汗が伝う感触すらも快感になる。スパートをかけてネロの感じるところにゴリゴリと欲望を押し付けると、ネロは無意識に腰を振って身悶えた。
「ぁ、あっ……だめ、らめ、やっ……んにゃっ……」
 貴仁の手の中でネロのものが痙攣し、白い液体を飛び散らせた。それに合わせてネロの内部も蠢くように収縮し、貴仁のものに強く吸い付く。
「……っ」
 堪えようと思ったが耐え切れず、ネロの中に溜め込んでいた欲望を注ぎ込む。ドクンドクンと全て吐き出してから、ネロの中から果てたものを抜き出した。
「ふぁ……すごい、タカヒトの……」
 抜いたところからすぐに自分の精液が流れ出てくるのを見て、貴仁は思わず赤面した。流れ出たそれは、割れ目を伝ってネロの真っ黒な尻尾まで白く染める。慌ててティッシュを探そうとしたが、それより先にネロがそこを手で拭い取った。
「タカヒト、きもちよかったんだね。いっぱい出てる」
 ネロは無邪気にそう言いながら、手に付いた貴仁の体液を嬉しそうに観察している。
「お前、ほんと、そういうの……」
 天然で煽るネロに大きな溜め息をついて、貴仁はネロをぎゅっと抱き締めて寝転がった。汗ばんだ肌にクーラーの空気が当たり、身体の熱が徐々に放出されていく。その分、室内の空気には二人分の熱気が伝わっていく気がした。
「こういうのね、ナカダシって言うんだって」
 腕の中のネロの爆弾発言で、せっかく息を整えていたのに思わず噎せる。
「それもマロネの知識か?」
「秘密」
 ネロは楽しそうにそう言って、貴仁の胸にすりすりと頬を寄せた。
「あー、もう、犯罪だよな、これ……」
「児童ポルノ? でもオレたち愛し合ってるんだからいーじゃん。タカヒトは、オレが大人になるまで待てた?」
「……我慢、できなかっただろうなあ」
 子供と性行為をすることに対する世間体だとかプライドだとか、そんなものよりも今目の前のネロが欲しかった。ネロを抱く力を強めると、彼は貴仁の腹筋に手を滑らせる。
「うんうん、じゃあ仕方ないよね。二人の秘密にしよ?」
 貴仁の腹筋運動の成果を愛でていたネロは、そこで何かに気付いたらしく固まった。
「どうした?」
「これ……痛い?」
 彼が示したのは抜糸の後が残る腹の傷跡だった。
「たまーにピリッと来るけどもう大丈夫。ていうか、痛かったらあんな腰振れないし」
 思い出して赤面するも、ネロは真面目な顔で傷を撫でた。
「そっか。でも、痕残っちゃうよね……ごめんね。オレのせいで……」
「お前は悪くないし、傷跡なんてどうだっていいだろ」
 ネロの頭を胸に引き寄せて、彼が傷口を見られないようにした。
「そうなの?」
「だって……どうせお前以外に見せないし」
 ぼそっと呟くと、ネロがパッと胸から顔を上げた。そこにはもう先程までの憂いはなく、頬を染めて瞳を煌めかせていた。
「うんっ、誰にも見せちゃダメだからね?」
 ネロを甘やかして喜ばせるたび、いつも胸の奥がむずむずする。幸せと気恥ずかしさが混じったような、甘い痒みのような何かだ。誤魔化すようにネロの髪と耳をまとめてぐしゃぐしゃと撫でた。
「そういえばお前、さっきイく時に『にゃ』って言った」
「い、言ってないもん!」
 慌てて首を振ったネロは、ぽかぽかと貴仁の胸を叩く。「かわいかったよ」などと言う台詞を言う度胸はないが、その代わりに「ネロ」と小さく名前を呼んでやると、彼は急に真っ赤になって大人しくなった。
 本当はネロの中を汚した後処理をしにバスルームへ行かなければならないことは分かっている。それでも、今はもう少しこの愛おしい小さな身体を抱き締めて、幸せの余韻に浸っていたかった。

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