ディストピア、あるいは未来についての話 26 | fDtD    
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26

 ファーストキスの感動に浸る間もなく、彼の舌が旭の唇を撫でてくる。たどたどしく口を開くと、彼の舌はすぐに旭の中に入り込み、歯列をなぞった。口腔の中も、舌も、旭のものは全部逃さないと言わんばかりに愛撫され、次第に頭がぼーっとしてくる。
 キスってほんとに気持ちいいんだな……。
 完全に主導権を彼に奪われたまま、発情期とは違う快楽に身を委ねる。おずおずと出した舌は、彼によってすぐに吸われ、唾液を交換するたびにちゅぱちゅぱと水音が響いた。
 名残惜しそうにゆっくり唇が離れても、旭はまだぼんやりとアラタの端整な顔を見つめていた。
「……旭?」
「っ! お前、なんでそんな上手いんだよ」
 やっぱり既に経験済みなんじゃないかと思ったが、アラタの答えは実に彼らしいものだった。
「本で学習した」
「……崎原先生にもらったのか?」
「いや、通販で」
 何かからかってやろうとしたのに、それより早くアラタの手が旭の腰を撫でた。
「旭、ここ固くなってる」
 抱き寄せられて密着した股間をグリグリと刺激され、旭の身体が跳ねた。
「俺のキスで旭が感じてくれたなら、嬉しい」
 彼の手がいそいそと旭のシャツを捲り上げようとしてくる。
「ちょっと、ここじゃなくて……」
 旭は目だけでベッドに行きたいと主張した。アラタは待ちきれないと言わんばかりに旭の身体をベッドに押し倒し、旭のシャツを一気に胸の上まで捲り上げる。顕になった乳首をチュッと吸われ、旭の腰がもじもじと揺れた。
「旭はここが弱い」
 その瞬間、研究所のバスルームで彼に乳首だけでイカされたことを思い出してしまう。彼も同じことを考えていたのか、あの時のように片方を口で、もう片方を指で弄び始めた。
 母乳も何も出るわけはないのに、彼は懸命にそこを吸い上げる。膨らみ始めた胸の突起は、指で摘むようにコロコロと転がされ、下半身に血液が集中した。
「だ、め……今日は、最後まで、するんだろ?」
 その言葉に、夢中になっていたアラタがハッと顔を上げる。
「……おっぱい大好き魔人」
「旭も好きなくせに」
 旭のボトムスはアラタによって簡単にずり下げられてしまう。黒いボクサーパンツの下、旭のそこはもう固くなっていた。
「旭の勝負パンツは黒」
「ちっがう!」
「でも今日スーパーで買った新品なのは間違いない。もう汚れているが」
 膨らみの先にできた染みを、アラタの指がツンツンと突く。くっきり形の浮き上がったモノを少し擦られただけで、旭のそこは限界を訴えた。
「も……無理! 早く……」
 不意にアラタの目の前で庸太郎とした時のことを思い出してしまったが、彼の機嫌を損ねないよう何も言わないことにする。
「早く、何だ?」
「言わなくても……っ、分かれよ」
「あいつにはいやらしくねだったのに」
 意地の悪い大人ではなく、我儘を言う子供のように、アラタはぐにぐにと旭の昂りを弄ぶ。
「あいつと、同じことしなくても……」
「同じことじゃない。俺の方がもっと凄いことをして、旭の中にあるあいつの記憶を全部塗り潰したい」
 ムキになった子供は中々どうして面倒臭い。旭はアラタの袖を引っ張って、潤んだ瞳を向けた。
「…………好き。こ、こんなこと言ってやるの、お前だけだからな。だから、早く――
 無表情のアラタだが、見えない尻尾を振っているような気がする。目論見通り、彼は大急ぎで旭の下着を脱がせてくれた。
 一息つく間もなく、外気に触れてふるりと揺れる旭の屹立は、アラタの口にすっぽりと包まれてしまう。
「ひゃ……ぁ、そんな、吸ったら……っ」
 意地悪をして焦らすのをやめたかと思ったら、今度は一気に果てるまで追い上げてくる。全くもってゼロかイチしかない極端な男だ。
「ぃ、く……だめ、だって、この……っは、ぁ」
 じゅぷじゅぷと音を立てて吸われ、旭のそこは溜め込んでいた白濁を吐き出した。彼はごくんとそれを飲み込んでから、旭の赤い顔をまじまじと見下ろしてくる。
「ふ、ぅ……っ、何見てんだよっ。お前も……すきって言え、ばか」
 両腕で顔を隠すも、アラタはそれをあっさり解いて、旭の捲れ上がっていたシャツを頭から抜いてしまう。
「好き、という言葉で本当にいいのか分からない。旭は俺にとって、神様のような存在だから」
 そういえばあのスケッチブックでもそんなことを書いていたが、この男はいつも突然おかしなことを言い出す。呆然とする旭の前で服を脱ぎながら、アラタはポツリポツリと語った。
「中学になって自分がβだと分かった時、俺は何の疑いもなくとりあえず弁護士を目指そうと思っていた。だが高校生の頃、弁護士を目指して走り続けることに迷いを感じ始めた。そんな時に出会ったのが旭の絵だ。未来というタイトルのあの絵を見た時、俺はなぜか母親のいなくなった弁護士事務所を思い浮かべた。君に感化されて将来への不安が増幅したが、それを取り除いてくれたのも、前向きな君の姿勢だった。君と会って会話をして、弁護士を目指すという決意を確かなものにしてくれた。あれがなければ、俺はきっとどこかでつまづいて弁護士にはなっていなかっただろう。去年αだと分かった時もそうだ。周りはまるで『αなら優秀で当たり前だ』とばかりに俺への評価を変えたが、旭の言葉を思い出せば耐えられた。普通のαでは辿り着けない、αの中でもさらにトップに上り詰めてやればいいんだと、そう思えた」
 下着以外の衣服を全部脱ぎ捨てた彼は、旭の手を取ってその甲に口づけをする。
「こんな話だけでは、きっと君に俺の気持ちは伝えきれていないと思う。ただ俺にとっては、俺が人生で道を外れそうになった時、君がいつも明かりを持って正しい方へと導いてくれたような気がしている。だから、旭は俺の神様で、好きという言葉では到底足りない。……いや、信仰を持つ人は皆それぞれの神を愛しているのだから、俺の旭への気持ちもやはり、愛なのかもしれない」
 ああ、なんでこいつはいつも大真面目に変なことを言うんだろう。なんで俺はそんな言葉に毎回毎回ドキドキさせられるんだろう。
 嬉しさと恥ずかしさが一気に襲ってきて、熱くなった顔を冷ますようにブンブンと首を振った。
「信心深い普通の信者は、神様相手にこんな風にならないっての」
 欲情でパンパンになっている彼の下着を爪先で小突く。
「今度は俺の番」
 身を起こした旭は、アラタの身体を押してベッドに寝かせた。
「お前の勝負パンツも黒?」
 下着の上から、張り詰めたそこにチュッとキスをする。
「いや……赤がいい。何となくめでたい色だ」
「変なこと言うと萎えるからもう黙っとけ」
 下着のゴムに手をかけ、ぐっと引き下ろす。彼の性器もそれに合わせて下を向き、限界を超えたところで勢いよく上向きに飛び出した。
 やっぱ、いつ見てもデカいよな……。コレが今から俺の中に……ホントに入るのか?
 旭はゴクリと唾を飲み、彼の先端に唇を付けた。カウパーの滲む先端の割れ目の辺りを重点的に舐めてから、亀頭を全部口に含んでカリ首の周辺を丹念に舌で愛撫する。
 その隙に自身の後孔に手を伸ばし、指をツプリと入れてみた。この大きなモノを待ちわびているのか、そこは既にしっかりと涎を垂らしている。しかしこの大きさが入るかどうかは別問題だ。旭は指でゆっくりと中を拡張した。
「ぁむ……っ、お前ホント元気だな。これから俺に童貞食われちゃう心境は?」
 アラタではなく彼の股間の息子に話しかけ、頭を撫でるかのようにその亀頭を指の腹でクチクチと擦る。
「魔法が使えるようになる前に脱童貞させてやるからな」
「魔法?」
「知らないのか? 童貞のまま三十歳超えると魔法使いになれるんだ」
 旭は彼の息子に音を立ててキスをした。
「……もう三十になっているが、魔法は使えない」
「あれ、誕生日いつだっけ?」
 九月に迎えた旭の二十三歳の誕生日は、あの地下室で彼に祝ってもらったが、彼の誕生日はまだ遠いとだけ聞いていた。
「五月五日。旭が体調を崩していた間に過ぎている」
「こどもの日って……」
 旭が笑いを堪えると、彼はムッと臍を曲げてしまった。
「旭、変なことを言われると萎える」
「萎えるどころかギンッギンなんだけど」
 旭は彼の先端から根元に向かってツツーッと指を這わせ、その下にある二つの袋を片手でやわやわと揉んだ。
「溜まってる? あの研究所でヌいてた? オカズは?」
 同じことを彼と研究所で会った最初の夜にも聞いた気がする。
「……旭」
「ん? どした?」
「だから、自慰のオカズと呼ばれるもののことだ。俺は高校生の頃から旭しか想像で使ったことがない」
 彼の玉を揉んでいた手も、後ろの穴を解していた指も、両方ピタリと止まる。
「いや、お前が高校生の頃って、俺小学生じゃ――
「だから?」
「へ、変態……っ」
 旭は無意識に目の前の太いモノをちらりと見てしまう。アラタが自分を想像しながらこれをシコシコと扱いている姿を想像してしまい、大慌てで身体を起こした。
「旭は? この二ヶ月、発情期もあったはずだ。どう過ごした?」
「そ、それは――
 アラタの部屋。彼の匂いのするベッド。クローゼットにあった彼のシャツ。彼の下着。
 アラタのことを馬鹿にできないような変態的なことをした……気がする。
「お前のこと、考えてた」
「さり気なくぼかされた気がする」
「お前だって具体的なこと言ってないだろっ」
 旭は彼の身体を跨ぐように膝立ちになり、二人の性器を擦り合わせた。アラタの手がそろそろと旭の白い双丘に添えられる。彼はそこをすべすべと撫でてから、これから入り込む蕾に節くれだった指の先を入れた。
 ぬるっと簡単に入り込んでしまい、彼は慌てて指を止める。目だけで「いいよ」と言うと、彼の長い指がぬるりと奥まで潜り込んだ。
 指一本くらいならΩのそこは簡単に飲み込める。しかし……と兜合わせになっている彼の立派なイチモツを見下ろした。
「旭?」
 旭の緊張に聡く勘付いた彼が、心配そうに見上げてくる。
「えと、大丈夫。俺、レイプじゃなく自分からセックスすんの、初めてで……しかもこんなデカいの入れたことないから、ちょっと不安で」
 旭はふざけるように、自身の欲望でアラタのモノをツンと突いた。
「怖いならやめる」
「嫌だ。……欲しい。一つになりたい」
 その言葉に、アラタの屹立がまた少し大きく固くなる。恐怖より愛しさが勝り、旭はそれを優しく握り締めた。
 旭に扱かれながら、アラタも旭の内部をじっくりと解していく。Ωのそこが意外と柔軟に伸びることに気付いたらしく、指の数を思い切って三本に増やすと、くちゅりくちゅりと中をかき回した。
「ぁ、んっ……」
 アラタの指がある箇所を掠めた時、旭の身体がぶるっと震える。それが、アラタの中にある好奇心旺盛な子供の心を刺激したらしい。彼は付近をくまなく探し、旭の身体が跳ねる場所を特定した。
「そこ、っ……何回も、ゃだ、ぁ……っ」
 クリクリとそこを押され続けて、旭は身体に力が入らなくなってしまった。ペタンと彼の上にへたり込むと、ぬるぬるした臀部が彼の太ももを濡らした。
 旭の中から指を引き抜いたアラタと目が合う。もう一度彼の上から腰を上げ、ジリジリと位置を調節し、彼の怒張をぬめる後孔にピタリと添えた。
「ん……入れて、いい?」
 アラタの手が旭の腰を掴み、下に落とそうとしてくる。力を抜くと、彼に導かれるまま旭の身体はゆっくりと沈み込み、アラタの屹立を咥え込んでいった。
 蜜をたっぷり湛えたそこは、案外自然に彼の太くて長いモノを受け入れていく。しかしやはり、これまで経験した誰よりもそれは大きく、経験豊富な旭でさえ、処女がそこを押し開かれていくような感覚に陥った。
「は、ぁ……入ってくの、分かる? 俺のここ、お前の形に……広がってく」
 旭の言葉責めに、アラタの顔は僅かに赤くなっている。快楽に耐えるように、彼はぎゅっと目を瞑った。その瞬間、力のこもった彼の手が旭の腰をグッと引き下げる。
「っあ、奥……っ。こんなとこまで来たの初めて……ん、ぁ」
 彼の根元まで全部を体内に埋め込むと、旭の形のいい双丘が、アラタの上にぺたりと付いた。
「っは、入っ、た……。へへ、お前のどーてー、食っちゃった」
 彼の締まった腹部に手をついてにっこり微笑むと、中にある彼のモノがまた大きくなったような気がした。
 腹の中を圧迫する大きさに少し慣れてきた頃、旭はゆっくりと腰を上下に動かし始めた。
「な、気持ちぃ? 俺のここが、お前のデカいの、中で……っゴシゴシ、擦れて」
 旭は自分の前立腺をうまく擦りながら、彼の固いモノを締め付ける。
「旭、は……?」
 快感に耐えるアラタの掠れ声に、旭はふわりと微笑んだ。
「ん……しあわせ」
 好きな人と幸せなセックスができること。今まで知らなかった温かな繋がり。涙が出そうになるほどの幸福感で、身体の中が満たされている。
 不意にアラタが上半身を起こし、ぐらりと身体が不安定になる。彼は旭の背中をしっかり抱き止めると、性急にキスをしてきた。
 キスがしたかっただけかと思いきや、彼はその対面座位のまま下から旭を突き上げる。
「ん、ぅ……、は、待っ、だめ、勝手に……っ」
 彼のキスから解放されると、勝手に声が漏れてしまう。騎乗位で優位を取ろうとしても、彼は必ず身体を起こして、最後は旭が啼かされてしまう。前も風呂場でこんな風になったことを思い出した。
「旭、あさひ……っ」
「ぁん、ゃあ、あっ、は……ぁ」
 激しく上下に揺さぶられながら、ついつい感じる場所が彼の先端に当たるように腰が動いてしまう。最早彼に突き上げられているのか、自分から動いているのかも分からない。
「ん、あら、た……んぁ」
 何かをねだったつもりもないのに、名前を呼ぶと彼は律儀にキスをしてくれる。ちゅくちゅくと響く水音が下の結合部から聞こえているのか、口付けの合間から聞こえているのか、それすら判断できないほど揺さぶられる。
 中を力強く抉るように突き上げられ、彼と自分の間で性器を擦り上げられ、旭は彼の腰を太ももでぎゅっと挟むと、ビクンビクンと身体を震わせて達した。
 勢いよく飛び出した白濁が二人の腹部を濡らす。旭の蠢く内壁が、アラタの剛直を搾り取るように締め付けた。
「んっ……だして?」
 まだ朦朧とした意識の中で思わず誘うように笑みを作ると、彼の腕に壊れるほど強く抱き締められ、奥にドクンドクンと熱いものが流れるのを感じた。
 二人抱き合ったまま、はあはあと荒い息を吐きながらベッドにどさりと倒れこむ。その衝撃で、アラタのモノはズルリと旭の中から抜けかけた。
「っはぁ、そっか、発情中じゃないと、これ、膨らまないんだよな」
 愛液と精液が残る彼のモノに手を伸ばすと、また身体の奥がムズムズしてくる。
「あれ、嘘……」
 単にムラッときただけでなく、覚えのあるザワザワとした感覚が身体中に広がっていく。
「まだ一週間も早いのに……っ」
 自らの身体を抱いて丸くなると、大きな手が旭の肩をガシリと掴んだ。
「あさ、ひ……」
「アラタ?」
 彼は苦しそうに呼吸を整えながら、震える唇を開いた。
「……熱い」
 まさか、と彼に触れようとした手が止まる。彼は旭を突き飛ばすようにして起き上がると、自身の下半身を見てゴクリと喉仏を上下させた。
「……薬がなければ、俺も旭の発情には勝てないようだ」
 そういえば彼は旭の発情期中、常に何らかの薬を飲んでいたのだ。
 彼の背中にピッタリと身を寄せた旭は、後ろから手を伸ばして彼の勃ち上がりかけたモノを撫でた。
「旭、俺は怖い。自我がなくなりそうで、旭に何をするか分からない」
 子供をあやすように彼の背中を優しく撫で、背骨に沿って唇を這わせる。
「俺、これまで散々酷い目にあっても生きてるくらい頑丈だぞ。お前が助けてくれた身体だ。めちゃくちゃに抱き潰してくれても構わないから。だから……一緒に気持ちよくなろう?」
 囁くように誘うと、旭の身体は一気にベッドへ押し倒されていた。
 噛み付くようなキスをされながら、全身を確認するように隈なく撫でられる。大きな狼が上からのしかかって、獲物を確認しているかのようだ。
 こうやって下に押さえつけられることで、旭の中にあるΩとしての本能が目を覚ます。そのフェロモンに当てられて、下半身に当たるアラタの欲望も熱く固くなっていた。
 早くもう一度旭の中に戻りたいと言わんばかりに、彼の手が旭の足を開かせる。暴かれた旭の秘所にアラタの剛直が擦り付けられるが、それは旭の谷間をぬるぬると滑るだけで、肝心の場所に入っていかない。
 キスを一度止めたアラタは焦ったように二人の下半身を見た。
「何……どうやって入れたらいいか分かんねーの? さすが童貞」
「さっき童貞は卒業している」
「まだ素人みたいなもんだろ」
 旭は自らの両手で双丘に手を添えると、入り口のあたりをくぱっと広げてやった。
「ほら、ここ」
 アラタは旭の痴態にフリーズしていて、股間も身体もガチガチだった。その間に、旭の入り口から白い物がツツーッと垂れる。
「早く入れて……塞いで。さっきもらったの、零れちゃう」
 αをどう誘えばいいか、経験豊富な旭は熟知していた。
 案の定、アラタの目の色が獰猛な獣のそれに変わり、彼の熱い楔がドロドロになっている旭の中を一気に貫く。さっき上から彼のモノを飲み込んでいた時とは違う、攻撃的な突き上げに、旭は思わず息を止めた。
 一番奥まで入っていたモノは、そこからゆっくりと引き抜かれ、完全に抜け切る直前でまたズブリと奥まで突き立てられる。抜けていく時のジリジリとした感覚と、奥へと押し込まれた瞬間に前立腺を掠める快感がもどかしい。
 チラリとアラタを見上げると、彼は荒い息を吐きながら二人の結合部をまじまじと見ていた。
 熱に浮かされた頭で、アラタから見えているであろうものを考える。彼の太い欲望が、旭の蕾を押し開いてぬめぬめと出し入れされているのが、そこからはさぞよく見えるだろう。
 身体の熱に我慢できなくなった旭は、慌てて彼の腕を掴んで気を引いた。
「な……もっと、早く……。ちんたらするのは、ランニングマシーンとエアロバイクだけにしろ」
 煽ってやれば、理性を飛ばした彼は言われるがままに動いてくれた。旭の肩をしっかりと押さえつけて固定すると、抽挿の速度を上げて旭の奥をズンズンと侵略してくる。
「んっ、そう……、もっといっぱい、めちゃくちゃにして?」
 アラタの頰に手を触れ、蠱惑的な笑みを見せると、彼の息子は素直にドクンと反応した。大した経験もテクニックもないが、その硬さと大きさだけで旭の中を蹂躙して征服していく。
 快感に耐える彼の顔と流れる汗を見ていたら、見るなと言わんばかりにキスをされた。彼の唇は徐々に下へと這い下りて、旭の首筋に辿り着く。番の契約の痕が残る場所まで来た時、彼はもう一度そこをガブリと噛んだ。
「ひぁ……っ」
 発情期で敏感になっている旭は、それだけでピュッと白濁を飛ばしてしまう。キュンキュンと中を締め付けながらイッている間も、アラタはお構いなしでピストンを続けた。
「今、待っ、ダメ……っふ、きもちよすぎて、ヘンな声、でる……」
 唇を噛もうとするが力が入らない。旭の口からは「ぁん、 ぁん」と甘い喘ぎ声が垂れ流された。
 その声に興奮を煽られるように、アラタの動きが強く早くなっていく。既に第一ラウンドで出された彼の精液が、一突きごとにじゅぷじゅぷと音を立てた。
 いつもどこか堅い口調を崩さず、氷のような無表情の彼が、今は熱いαの本能を剥き出しにしている。Ωの奥の奥まで入り込もうと必死に腰を振る、そんなαの姿が、生まれて初めて愛おしいと思った。
 まだ首筋に顔を埋めたままの彼の頭をそっと抱き、風呂上がりでまだ少し濡れている黒い髪に指を通す。
 αが欲しい。
 この男の全てを、中に注ぎ込んで満たして欲しい。
 Ωの本能と旭の心の声が、やっと一致した。
 彼の責めに先程から何度も軽くイカされながら、段々と大きくなる彼の亀頭球の存在を感じ取る。ゴリゴリと擦り上げられるたびに、旭の中は彼の屹立を締め付けた。
 アラタの腰に絡み付けた足をヒクリと痙攣させながら、一際大きく中をうねらせる。すると、彼は最後のスパートとばかりにパンパンと叩きつけるように数回抽挿し、旭の中に欲望を注ぎ込んだ。
 胸元に彼のはあはあという吐息を感じながら、彼の頭を撫で続ける。今までの発情期に経験してきたセックスとは違い、旭の身体は穏やかに流し込まれる精を受け入れていた。
「はあ……発情中にこの体勢で出されるの、初めてかも」
 旭の言葉にアラタがゆっくりと顔を上げる。彼はまだ意識が朦朧としているようで、かろうじて目を眇めることで疑問を表した。
「皆バックだったから。そっちの方が長い間繋がってても楽だからな」
 亀頭球が戻って抜けるようになるまで個人差はあるが、早いαでも二十分はこのままだ。足を開く旭に負担をかけまいとしてくれたのか、彼は身動いで体勢を変えようとしてくる。
「いいよ、こっちの方が……キス、できるし」
 照れて目を逸らすより早く、彼は旭の唇にかぶりついてきた。
 甘い甘いキスを受けながら、彼が残った精液を吐き出すのをしばらくの間受け止め続ける。下腹部も、全身も、セックスの疲労感とは別の何かでじんわりと温かくなった。
「発情期ってさ、いつもホント辛くて、地獄だと思ってた。でもお前と一緒だと、発情期も悪くない。Ωなんて糞食らえってあれだけ反発してたのに、今はこうしてるのが幸せに感じてる。なんか、変な感じ」
 もうほとんど精も出し終わっただろうという頃、まだ繋がったままぐったりと抱き合いながら、旭は訥々と語った。
「発情期やΩのことだけじゃない。あの監視カメラのある軟禁部屋だって、このクソみたいな世界だって、お前と一緒なら、少しだけいい場所になる気がするんだ」
 ユートピアはどこかの場所にあるわけではなく、誰かと一緒にいる時にふと現れる影か蜃気楼のようなものだ。彼と一緒に死ねるなら、彼と一緒に地獄へ落ちるなら、それでもいいかと思ってしまう。
 旭の頭の中にある一枚の写真。並んで座り、眠るように目を閉じた両親の記憶を、旭はそっと抱き締めた。
「なあ、お前、種付けに夢中で聞いてないだろ」
 彼の腰に軽く蹴りを入れる。油断するとすぐ旭の乳首に吸いつこうとするから困る。
「っは……聞いてる。旭が俺を愛しているという話、だな?」
「ん……もうそれでいいよ。それにしても、まさか発情期が始まるなんて」
 とりあえず今は小康状態に入りつつあるが、またすぐに次の波が来てしまうだろう。
「周期が狂った?」
「そう。なんだろ、お前との最初のセックスで興奮したのかな」
 正直に言ってしまってからカッと顔が赤くなる。せっかく終わりそうなのに、また中で彼のものが質量を増したような気がした。
「俺に孕まされたい気分になったのか……」
「孕まない! ……ごめん」
 彼がこんなに一生懸命旭の中に種をくれても、この土壌では何も実をつけてやることはできないのだ。
 しゅんとした旭の頰を、アラタの大きな手が拭うように撫でた。
「どうして謝るんだ?」
 子供ができるかどうかは気にしない。彼の目ははっきりとそう告げていた。だから旭も暗い顔はやめることにする。
「とりあえず今夜は一晩ここで過ごすとして、明日の朝飯はどうする? もう内線で頼めば持ってきてもらえるわけじゃないんだ。……はあ、やっぱりあの研究所の生活って至れり尽くせりだったよな」
 そんな嘆きも無視して、アラタは旭の身体を閉じ込めるように抱き締めてきた。
「食事も何もいらない。旭とずっとこうしていたい。トイレに行く時間も惜しい。紙コップに出そう」
 彼の問題発言に思わず頭突きする。
「ふっざけんな。そんな恥ずかしいことできるか」
「研究所で会って二日目に既にやった」
「忘れろ! トイレは絶対行く。食事も何か食わなきゃ死ぬぞ」
 アラタは額を抑えながらムッと顰めっ面をする。
「なら……お粥を、作る」
 旭に褒められた料理をいつまでも披露しようとする彼に、この胸はたまらなくキュッと嬉しくなってしまう。つい先ほどの変態発言も忘れて。
「こ、今度他のメニューも教えてやるからな」
「今度……」
「そうだよ。今日はまだ結婚初日。これからずっと一緒に暮らしてくんだから」
 アラタの左手を取ると、彼の真似をして薬指のリングにキスをした。
「この発情期が終わる頃には年越しだろ? 初詣とか行ってさ、スキーとかスノボも行きたいな。春になったら花見をして、ゴールデンウィークあたりにどっかの山でも行くだろ? 夏はもちろん海」
 子供の頃、たくさん将来の夢を描いた時のように、旭は未来への希望に瞳を輝かせた。
「旭と一緒なら、どこへでも」
 そう言ったアラタが軽く旭の奥を突くと、また甘い疼きが湧き起こる。
 その日は一晩中これからやりたいことを二人で考えながら、合間に我を忘れたように互いの身体を求め合った。
 しかし、二人で立てた来年の計画の大半は叶わなくなる。なぜなら、一月末になっても旭に発情期が来ず、病院での検査の結果、旭が身ごもっていることが発覚したからだ。

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